終の信託

映画「終の信託」 周防正行

あらすじ(ネタバレなし)

重度の喘息で入退院を繰り返す患者・江木秦三(役所広司)。江木の担当医の折井綾乃(草刈民代)。ふたりはだんだんと距離を縮め、お互いを信頼するようになっていく。
そんな折、死期が近いことを悟った江木は、もしもの時は延命治療をせずに死なせて欲しいと折井にお願いをする。

感想(ネタバレなし)

終末医療や尊厳死をテーマとした作品。人のあり方と生き方を問うた、問題提起的作品。

尊厳死をテーマとした映画は、「ミリオンダラー・ベイビー」以降いくつか見てきました。尊厳死は、人の倫理感や幸福感と照らし合わせると、必然的に認められるべきであろうという意見が多くなるにも関わらず、行政や法律が時代遅れで、それ故にもどかしさを感じるというものが多かったと思います。
終の信託もその流れを継いでいました。しかし、単純に尊厳死尊重の美しさを描くだけでなく、それに伴う副作用的な部分も一部描かれています。何も見ずに、ただそうあるべきだからということで、安直に尊厳死に賛成することは危険だなとも思いました。

正直、後半は役者を喋らせすぎだなと思いました。監督が伝えたいことを、全部草刈民代に喋らせるつもりだなと思いました。
この草刈民代の演技が私はちょっと苦手です。終の信託でも、これでいいのだろうかという演技がいくつも登場します。役所広司の演技がいつも通り素晴らしかったので、余計にそう思ってしまいました。
ですが草刈民代は、後半ガンガン喋り始めてからは迫力のある演技でした。普段は控えめであまり自己主張をしない女性が、自分の信念に関わる部分では主張を決して譲らないような、そんな芯の強い女性像を演じられていたと思います。監督が一番伝えたシーンだったし、撮影にも力が入ったのかもしれませんね。

それにしても、終の信託が2012年公開。ミリオンダラー・ベイビーが2004年公開。ミリオンダラー・ベイビーがいかに革新的だったかを思い知りました。

感想(ネタバレあり)

ここから先は、物語の核心に触れる記述があります。まだこの映画を見ていない方はご注意ください。


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終の信託で最も衝撃的だったシーンは、患者であった江木秦三が死ぬシーンです。
人工呼吸器を止めたあと、江木が苦しがって暴れるシーンです。確かに江木は辛いまま生きることを拒んではいましたが、あのシーンを見ている間は、本当にこれでよかったのだろうかと、迷いを感じました。人はどんなに死を望んでいても、いざその時になるとどう思うかなんて、正にその時にならないと分からないではないですか。
このまま死なせてしまっていいのだろうか。やっぱり生かすべきなのだろうか。
私は完全に尊厳死賛成派です。が、このシーンを見て、もう少ししっかり考えてから結論を出さなくてはならないかもしれないと思いました。

とは言っても、恐らく結論は変わらないと思います。今までもあれこれ考えましたし、「自分だったら」や、「自分の大切な人だったら」を何度も考えました。机上の空論と言われればそれまでですが、自分で「いざ死ぬ場面」を体験する機会など普通はありませんから、そこは勘弁してください。
結論が変わらないからといって、無駄だとは思っていません。なんとなく出した結論と、散々思い悩んで出した結論とでは、いざその場になった時に違うと思いますので。

「いざその場」を、自分自身についても、大切な人についても、これから考えなければならない時が来るかもしれません。その時のために、今のうちからしっかり考えておかないとと、終の信託を見て思いました。

江木は少し不用心だった思います。自分の死を託した担当医の折井が、刑事責任を問われる可能性は十分にあったわけです。それを口約束だけで託してしまって良い訳がありません。
法律をしっかりと勉強し、折井の今後を考えてあげるべきだっと思います。
映画の最後で文字だけの説明になっていましたが、後に江木のノートに「延命治療を望まない。」という一文がみつかり、折井の責任は軽くなりますが、執行猶予付きとはいえ有罪判決を受けることになります。
確かに、江木が死ぬシーンを見れば、ある程度の医療ミスがあったように思われますが、自分の信念に従って一生懸命頑張った折井が不憫でなりません。

もちろん最も糾弾されるべきは司法の方ですが。
検事役の大沢たかおが憎い演技をしてましたね。ある意味監督の悪意を感じますが。
「検事悪いなー。」って、誰もが思ったと思います。そういえば、周防正行の作品の「それでもボクはやってない」でも、司法が悪者扱いされてましたね。

尊厳死については、かなり一般的に認知もされてきていますし、少しずつ法律の方も追いついてきているように感じます。が、まだまだ議論は足りていないでしょう。こういった尊厳死に関する映画がこれからも登場し、人々に考えるかっかけを与えてくれるならば、それはとても良いことだと思います。その映画が、尊厳死に賛成の立場であっても、反対の立場であってもです。双方の視点からの作品があれば、それはとても歓迎するべきことだと、私は思います。

ところで、後半はちょっと地味過ぎませんでした?ずっと検事と折井の対話シーンだったじゃないですか。もう少し回想シーンとか挟みながらできなかったのでしょうか。
確かにあのバトル(口だけです。手はでてません。)は、なかなか緊迫感ありましたが、ちょっと地味だなと思いました。
動きのあるシーンを挟んだ構成にするか、バトルをもっと緊迫感あるものにするか、どちらかが必要だったように感じます。それかハッとするような役者の素晴らしい演技とか。後半がもっとしっかりしていれば、もっと印象に残った映画になったかもなと思います。
もう一回言っちゃいますが、いや、あの大沢たかおは本当に憎らしかったですね!!

最後にもうひとつ。役所広司の演技が素晴らしかったです。穏やかなシーンでも凄く存在感がありましたし、発作のシーンとか凄かったです。本当に死ぬんじゃないかと思いました。あの演技は、観客に、江木が延命治療を望まないことを知らしめる、最高の演技だっと思います。
そして江木が死ぬシーン。苦しそうに暴れる役所広司を見ていると、本当にいろいろな迷いを感じました。あの演技あってこそのあのシーンです。最近は病気で死んでしまう、いい人の役ばかりやっているように感じる役所広司ですが、これからも元気に(?)そういった演技を続けてほしいと思います。

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ぺんぎん

ぺんぎん の紹介

物語をこよなく愛する一般人。 物語ならば、映画、小説、アニメ、ゲーム、マンガなどなど、形態は問いません。ジャンルや作者に縛られない濫読派。
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