あらすじ(ネタバレなし)
江國香織と、彼女が飼っている犬と、一緒に聞いた音楽を綴ったエッセイ集。80年代を中心とした音楽から、犬と一緒に過ごした生活へと話題を広げていく穏やかな作品。
感想(ネタバレなし)
あのベストセラー作家の江國香織の小説を読んでみたいと、私はずっと思っていました。そんなわけで、書店の江國香織の本が並んでいる棚から「これだ!」と思って買ってきた一冊。
「雨はコーラがのめない」というタイトルがあまりにも可愛くて買ってきたのですが、なんと小説ではなくてエッセイでした。タイトルを見てもわけが分からなかったのですが、家に帰ってきて本を開いてみれば、あっという間の種明かしです。「雨」というのは、江國さんが飼っている犬の名前だったのです。よく見たら、本の表紙にも犬の絵が描いてありました。
「雨」が犬だっと分かってから、もう一度「雨はコーラがのめない」というタイトルを見てみると、更に可愛さが増します。
最初の1行がとても印象的でした。
「きょうは、粉雪の中を、雨と散歩にいった。」
雨なのに雪。そして5行目くらいまで読むと、雨が犬であることが明かされるのです。
実は以前にも、今回の「雨はコーラがのめないと」同様に、「これだ!」と思って引っこ抜いてきた江國作品があるのですが、そちらは絵本でした。
「デューク」というタイトルの、犬のお話です。
どうやら私には、なかなか江國香織の小説を読むことができない呪いがかけられているようです。デュークも雨も犬だし。
しかしどちらの本も良かったので、悪い呪いではなさそうです。
さて、本題の感想に入ります。(やっと)
まず、幅広いジャンルの音楽が出てきたことに驚きました。「江國さんっていろいろ聴いてるんだな。」と思いました。
江國さんの世代ということがあるのでしょうが、80年代の音楽が多かったです。しかしジャンルはポップスやロックだけでなく、ジャズやシャンソンやR&B、邦楽から洋楽まで、とても幅広かったです。しかも、有名所だけでなく、結構マニアックなアーティストや曲が取り上げられています。しかも曲やアーティストについてはほとんど説明されない。読者は、全然聴いたこともないような音楽を題材に進められていくお話を読み進めるのです。しかも、音の鳴らない小説という媒体で。
しかし、お話は曲をとっかかりにして、雨のことや江國さん本人の話へと広がっていきます。なので、全然知らない曲でも気にせずに読めました。
同じ世代で、同じ音楽を聴いてきた人たちは、もっともっとこの本を楽しめるのかも知れません。私は犬を飼ったことがないのですが、犬を飼っている人たちは、もっともっと共感できるのかもしれません。江國香織の小説のファンの人たちは、江國香織の普段の生活を垣間見れて、もっともっとワクワクできるのかもしれません。しかし、世代も違う、犬を飼ったことがない(犬は大好きです)、江國小説を読んだことがない私でも、しっかりと雰囲気を味わうことはできましたし、楽しく読んで、心が温かくなりました。
感想(ネタバレあり)
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エッセイなのでストーリーというものがなく、ネタバレというほどのこともないので、ここに書くことはあまりないのですが、雨がかわいいという話を少しだけ書かせてください。
多くの犬は年をとっていくと、だんだんと物静かになっていくようですが、いつまでたっても「遊んで遊んで!」と飛びついてきて、顔や手をペロペロとなめまわし、バタバタと落ち着きなく走り回る犬もいるようです。雨はそういうタイプの犬のようです。
私は自分で犬を飼ったことがないので、犬と遊ぶというと、人の家に遊びに行った時なんですが、落ち着きのないタイプの犬だと結構疲れます。服は毛だらけになるし、手も顔もベトベトになりますし。だがそこがいい!ピョンピョン跳ねながら飛びついてくると、もう一緒になって転がってワシャワシャしたくなります。
ごろごろー!ごろごろー!
と、思いながエッセイを読み進めていたのですが、最後に載っていた写真を見たら結構大きかったんです、雨。あれとごろごろー!ってしたら、結構凄いんじゃないかと思います。
ちょっと気になってググりました、アメリカン・コッカー・スパニエル。
わりと活発な子が多い犬種で、体高(地面から頭の高さまで)は35cm~40cmくらい、体重は12kgくらいと、やや小さめの中型犬ということです。体重12kgの犬が本の通りのテンションではしゃいできたら、結構大仕事になりそうですね。
江國さんは犬のことを凄くリスペクトしていて、「雨にとって、世界はつねに自分と共にだけ、あるのだ。ぶっとんでる、と、私は思う。」と書いたりしていました。見方によっては、自分と自分の周りと、今という時間にしか考えが及ばないアホなのですが、確かに言われてみれば刹那的でロックでぶっとんでます。「今、ここ」以外に興味を広げないというかっこよさを感じました。
そんな雨も、白内障を患い視力を失うのですが、雨はそれでも身体をいろんな所にぶつけながら、どんどん歩いて行くのです。やっぱりロックでした。
最近、目が見えないがために外に出るのを怖がっていた女の子が出てくる「暗いところで待ち合わせ」という映画を見たばかりなので、なおさら雨は凄いなと思いました。
目が見えなくなるということは、もの凄く重大なことに感じるのですが、そんなことを意に介さないような雨。そして心配しながら、雨をリスペクトして一緒に過ごしていく江國香織。この2人(1人と1匹)の繋がりが羨ましくもあり、尊く感じました。
雨のことばかり書きましたが、最後に音楽のことも少しだけ。なんせ知らない曲ばかりだったので。
私は80年代の洋楽は大好きなので、クイーンやエアロスミスやデフ・レパードやスティングなんかは知っていて、「あー、あの曲はそうだよねー。」と思いながら読んでいました。が、同じ80年代でも、江國さんが聴く音楽は結構幅広くて、全然知らない曲がたくさん出てくるのです。ヒットチャートや流行りに流されるだけでなく、ちゃんと自分の好みを把握してて、好きな音楽を探してるな、という感じがして、共感が持てました。しかも結構音楽としてちゃんと聴いていて、歌詞の内容の話なんかも織り交ぜていますが、歌詞よりも音楽としての歌に重点を置いて聴いているように感じました。
楽器やアンサンブルの話はあまり出てこないのですが、声の感じや歌い方の描写は凄く豊かで、知らない曲でも、「こんな感じの雰囲気なのかなぁ。」と思えましたし、「今度聴いてみようかな。」と、興味を広げてくれたりもしました。
ということで、まったりしながら、ほんわかのほほんと読めたエッセイです。江國さんの「雨大好き!」が伝わってきたのか、私も今では雨のファンです。
しかし、結構前に出版された本のようでしたので、雨はどうなったのかなと調べてみたら、こちらのブログ(四日市ランチさとちhttp://plane.jugem.jp/?eid=156)によると、どうやら既に亡くなってしまっているようです。
きっと江國さんのような素敵な飼い主と共に過ごせて、幸せだったことだろうと思います。
さて、次こそは江國香織の小説を読めるように祈って、もう一度書店の棚に並ぶ本たちと対峙してみようと思います。