幻夜

小説「幻夜」 東野圭吾




あらすじ(ネタバレなし)

町工場を経営していた父親が、バブル崩壊の煽りを受けて多額の借金を返せずに自殺。その通夜の翌朝、水原雅也は阪神淡路大震災に被災する。
雅也はこの震災の混乱の中、父の借金を返すように言ってきた叔父を殺害してしまう。しかし、そのそばには新海美冬という女性が立っていた。
ふたりは震災を逃れ東京へと移るが、彼らの周りでは陰謀めいた事件が何度も起こり始める。

感想(ネタバレなし)

あの名作「白夜行」の続編と聞いて、これは読まずにはいられないと思っていた作品です。
徹底的な第三者目線や、暗さと狂気を感じる文体は白夜行のままです。明らかに東野圭吾は続編ということを意識して書いていますが、明確に続編とは言えません。全然別の物語として、白夜行を読んでいない人が読んでも問題ないと思います。
白夜行に比べて、哀愁感は少なめでした。どちらかというと、狂気が多めです。どうしても白夜行と比べてしまいますが、その辺りが白夜行よりも見劣りしました。ここは好き嫌いなのでしょうが。

明確に続編とは言えないこともそうですが、第三者目線ということもあり、いろいろなことがぼんやりとだんだんと見えてくるというトリックが多用されています。その雰囲気が、物語全体の不気味さを際立たたせています。そういった、ぼんやりとした伏線を次第次第に拾っていって、最後には一本につながっていく。が、全ては明らかにしない。生殺しかとも思いますが、そこがこのシリーズの醍醐味でしょう。
ということで、白夜行第三部を期待しています!書いてください!

感想(ネタバレあり)

ここから先は、物語の核心に触れる記述があります。まだこの小説を読んでいない方はご注意ください。


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「ああ、新海美冬が西本雪穂だな。」と、すぐに思いました。なんで名前変わってるんだろうとも思いましたが、まあ雪穂なら名前変えることくらいはなんてことないかなとも思って読んでいました。
結局は、名前どころか人物まで入れ替わっていた訳ですが。実際に美冬と雪穂が同一人物かどうかは、「好きなように解釈して読んだらいい。」の一言につきますが、私は同一人物と思いながら読んでいたので、そういう視点から感想を書いています。
この根本のところすらぼかして書いたのは良かったですね。「どうだろう。どうなんだろう。」と思いながら、ワクワク読めました。

ただ、この新海美冬という人物、ちょっと狂気に走り過ぎている感じはありました。白夜行では、西本雪穂と桐原亮司の繋がりに、ふたりの微かな人間性を感じ取れたのですが、新海美冬には狂気しか感じません。
白夜行でも、雪穂と亮司のことは明確には書かれていませんが、その周りの人物からの目線で「ふたり」が仄めかされていていました。この仄めかし方が絶妙で、私が白夜行を好きな一番の理由でもありました。
幻夜ではそこがなかったので、私としては残念でした。新海美冬に人間性を感じられませんでした。
ただ、その「人間性を感じられない」という怖さは倍増(いや、5倍増くらい)されていたので、そっちの雰囲気が好きな人には良いかもしれません。

「周りの人物からの目線」といえば、このメソッドは白夜行から引き継がれていました。白夜行では雪穂と亮司の感情が書かれていなかったのと同じように、幻夜でも新海美冬の感情は書かれていません。
美冬の周りの人物が見た美冬が描かれています。美冬自身が本当は何を思っているのは書かれていませんが、第三者の目線から観察して、美冬が何を思っているのかを推察していきます。が、美冬が演技をしている可能性もあるので(むしろその可能性が高いので)、結局本当の本当の所は分からないのです。
この、明確には書かないぼんやり加減の不気味さが、本当に不気味です。

ラストはどうでしょう。すっきりと終わらないのは当然ですが、釈然としない感は強かった気がします。
水原雅也が、「美冬は本物の新海美冬ではなく、自分は騙されていたんだ。」と気がついてから、美冬を殺す路線まっしぐらだったんですが、蓋を開けてみたら、美冬を追い詰めつつあった刑事の加藤と共に死んでしまうっていうキチガイエンドじゃないですか!
これはアレですよね。雅也は結局美冬を愛していて、最後の最後まで、自分の命を投げてまで美冬を助けたってことですよね?
騙されて人殺しまでさせられて、魂を殺されたとまで言っていたのに・・・。そういう意味で、最後の最後までこの小説は狂気だったということでしょう。
ああ、有子ちゃんという娘がいながら・・・。

なお、私は断然有子ちゃん派です。有子ちゃんいい子!有子ちゃんかわいい!!
雅也の行きつけの定食屋「おかだ」の娘の有子ちゃんがいい子すぎて辛かったです。でも、雅也が遠ざけようとした気持ちも理解できます。いや、300%理解できます。
自分の手を汚してしまっているのに、あんないい子を自分のそばに置けるはずがありませんから。あえて言うならば、いい子すぎることがいけなかった。辛い!切ない!

新海美冬自体に人間性は感じませんが、こういった周りの人物をしっかりと描いているところが東野圭吾の魅力だと思います。ミステリーだが、ミステリーに徹しない。しっかりと読者の心に刺さるものを用意している。事件や捜査やトリックだけでなく、心が動くようなものを用意している。かといって、泣かせる気満々の陳腐なストーリーにはしない。どんな才能だよ。まったく。

有子は物語な重要な部分には関わってきませんが、彼女は私の中で、幻夜最重要キャラです。
有子がいなかったら、物語は本当に狂気まっしぐらな雰囲気だったかもしれない。物語に微かな明かりを灯す優秀なキャラです。
ああ、有子ちゃん!!

なんか物語のことよりも、有子ちゃんのことを書いた気がする。
ともあれ、第三部を本当に期待しています。
文庫本の解説を黒川博行が書いているのですが、そこには、東野圭吾が幻夜の続編を考えているような言及がありました。「書く」と確約はしていませんが。
いや、ホント待ってますので。お願いします!

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ぺんぎん

ぺんぎん の紹介

物語をこよなく愛する一般人。 物語ならば、映画、小説、アニメ、ゲーム、マンガなどなど、形態は問いません。ジャンルや作者に縛られない濫読派。
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