あらすじ(ネタバレなし)
主人公は、「獣堕ち」と呼ばれる半人半獣の男。獣堕ちは、その首に魔術的な価値があるため、魔女に命を狙われる。主人公の「俺」も魔女に追われていたのだが、その途中で「ゼロ」と名乗る魔女に助けられる。ゼロは、「ゼロの書」と呼ばれる本を探して旅をしていた。「無事にゼロの書を取り戻したら、人間の姿にもどしてやる」ことを条件に、主人公の獣堕ちは魔女の傭兵になる。
感想(ネタバレなし)
美少女の魔女とモフモフの物語。
この世界では、「魔術」と「魔法」は区別されています。
魔術は、魔術師や魔女が使うもの。
魔法は、魔術を人間が使えるようにしたもの。
普通の人間は魔女の力を恐れ、魔女を焼く。
魔女はその報復として人々に刃を向ける。
そこに、才覚さえあれば普通の人間にも使える「魔法」が絡んできて、更に半人半獣の獣堕ちなんていうのも出てきます。
これだけ「世界観の風呂敷」を広げてしまえば、あとは魅力的なキャラクターを登場させて動かしていけば、絶対に良い物語が作れる・・・はずだと思うんですが、そうはいきませんでした。
ストーリー展開が無理やり過ぎて、せっかくの世界観が台無しです。
無理やりハッピーエンドにするために、世界の理を捻じ曲げたんじゃないかと思うくらい無理なストーリーだったと思います。
キャラクターは非常に魅力的です。
特に「ゼロ」という名の魔女(美少女)のキャラクターは非常に良いです。
ゼロは、魔術の天才と言われるほどの才能を持っており、その上、研究熱心で好奇心旺盛です。
ですが、魔術の研究にばかり熱中しすぎて、世間のことは全然知りません。
それでいて、自信に満ちていて自分の進む道を真っ直ぐ見据えています。
主人公の獣落ちの傭兵も良いキャラクターです。
真面目で正直で、理不尽なことが嫌いです。
その姿から辛い子供時代を過ごすことの多い獣堕ちは、グレて悪の道に進む者も多いようですが、この主人公は常に正義を愛するナイスガイです。
そしてモフモフ。
これだけ「面白い世界観」と「魅力的なキャラクター」をそろえておいて、残念なストーリー展開になってしまったのが本当に残念です。もったいない。
美少女魔女とモフモフ傭兵のデコボココンビを見るだけならば、ほっこりできて良いです。
真面目にストーリーを見ようとすると、ちょっと物足りないという感想でした。
感想(ネタバレあり)
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ハッピーエンドにするために、無理やりストーリーを捻じ曲げたとしか思えません。
事の発端は「十三番」という名の魔術師でした。
十三番は、争いのない平和な世界をゼロに渡すため、行動を起こしました。
ゼロや十三番は、「穴ぐら」と呼ばれるところで、他の魔術師たちと魔術の研究をしていました。
その穴ぐらの中で、ゼロは魔法という技術を完成させ、それを「ゼロの書」に記しました。
十三番は、穴ぐらの仲間を皆殺しにし、ゼロの書を奪って外の世界へと出ます。
そして、ゼロには「盗まれたゼロの書を探しに行く」と言い残し、穴ぐらを去ります。
十三番は素性を隠したまま、「ゼロの魔術師団」を作り、魔法を広めました。
そして魔法が国中に広まった頃、自らは「国に協力する魔術師」として、国のために働くポジションにつきました。
そして、ゼロの魔術師団を作った者として、ゼロの魔術師団の者たちを扇動し、国家に対する反乱を起こさせます。
十三番の目論見は、十三番の力でこの反乱を鎮圧し魔女たちを一掃することで、「良い魔術師」の権力を絶対的なものにすることでした。
後はこの座をゼロに譲れば、ゼロは「良い魔術師」として国を手に入れることができるということでした。
ですが、ゼロはそんなことは望んでおらず、「ゼロのため」と思ってやってきた十三番は残念無念なことになるのです。
そして、ゼロたちは「国中の魔法を無効化する魔術」を使い、争いを鎮めることになります。
まず、十三番のやって来たことは「狂気の沙汰」としか言えないようなことでしたが、共感できないことはありませんでした。
愛する人(実際には愛する妹でした!)のために、どんなこともしてしまう狂人。
ですが、国中の魔法を無効化した後の歴史の流れは強引すぎます。
魔法の力を使えなくなったこの国では、魔術師たちを恐れる必要がなくなり、みんな仲良く暮らしましたとさ。
そんなわけあるかい!!
普通に考えて泥沼だよ!!これ!!!
反乱を起こしておきながら魔法の力を失ってしまった者たちは全員火あぶり。
そしてこれが憎しみの連鎖になり、反乱組織が武力蜂起。内戦へと発展っていう流れでしょ!
めでたしめでたしにするなんて、人間ナメすぎですよ!!
だいたいね、十三番はやりすぎなんですよ!!
あんなに魔術師殺しちゃって、国家を転覆させるような扇動しちゃって、100回位死刑になってもおかしくないですよ!!
みんな揃って十三番を「殺さない」っていう選択をするのおかしいと思います。
「復讐は何も生まない」という理論はわかりますが、それを受け入れられてしまう登場キャラクターたちの気が知れないです。
キャラクターたちは魅力的でしたが、ちょっと「いいヤツ」が多すぎる気がします。
十三番もそうですし、犬面のホルデムもそうですが、明らかに「悪いヤツ」なのに「実はいいヤツだった」っていうの、ちょっと無理矢理すぎる気がしました。
十三番のせいで祖母であるソーレナを火あぶりにされたアルバスに対して、「おまえには我輩を殺す道理がある。」と言って、その死を受け入れようとまでするような十三番が、「妹に平和な世界を与える」とか言って殺戮の限りをつくすでしょうか。
いや、そんなことはしないと思います。(いくら妹が大好きでもね!)
唯一自然な流れだったのは、ゼロと傭兵の関係性です。
ゼロは、傭兵の真っ直ぐなところをすごく買っていましたし、信頼もしていました。
対して傭兵は、ゼロのことは信頼していましたが、魔女に対する「恐怖」というものは感じていました。そのため、完全には信頼できていませんでした。
それが原因で気持ちがすれ違ってしまうこともあるのですが、いろいろなあれやこれを通して、しっかりとまた信頼を強めていきます。
この二人の関係は、見ていてほっこりしました。良かったです。
ゼロが「ゼロの書」を書いた理由がすごく好きです。
「斧を使わずに木が切れたら便利だろう。」「弓矢がなくても獣を狩れたら便利だろう。」
ゼロは人々の生活の向上を思ってゼロの書を書きました。
それが武器や争いに使われることなど想像もしません。
魔術には詳しいが世間を知らないゼロらしい考えですし、非常に心が洗われます。
人が使う道具も、多くはゼロと同じ気持ちで作られたでしょう。もちろん、武器として作られ、それが道具に変わった物もあるのでしょうが。
みんながみんなゼロのように考えて物作りに励んだのなら、世界はもう少し平和になると思うのですが・・・。