クヒオ大佐

映画「クヒオ大佐」 吉田大八

あらすじ(ネタバレなし)

アメリカ海軍パイロットと名乗り、多くの女性たちから約1億円を騙しとった実在の日本人詐欺師を主人公にした映画。自らを「クヒオ大佐」と名乗り、数々の女性たちに声をかけていく。

感想(ネタバレなし)

どんな凄腕詐欺師なのかと思ったら、まったくもってコメディーでした!

クヒオ大佐の事件は、ニュースで見たことがあるという程度に知ってはいました。なので、詐欺師としての凄さを映画の中で見られると思っていたのですが、とんだ大間違いでした。コメディー映画風に仕上げてあるからだと思いますが、「なんでこんなのにひっかかるの?」っていうようなスットボケた手腕です。カタコトの日本語も、演劇のような所作も、見るからにコスチュームな服装も、どう見ても三流詐欺師です。どこまでが映画としてのエンターテイメントなのか、どこまでが本当にあったことなのか判断が難しいですが、私はコメディー映画として楽しみました。

そんなクヒオ大佐を演じたのは、ダメでアホな役を演じたら最高だと(私の中で)専ら評判の堺雅人です。「10倍返しだ!」ですっかり有名になってしまいましたが、堺雅人の真骨頂はダメ男の演技だと思っています。「鍵泥棒のメソッド」の時なんか、最高にハマっていたように思います。
いかにも胡散臭いクヒオ大佐も、ピンチになってオロオロする感じのクヒオ大佐も、大変素晴らしいコメディー演技を披露してくれています。

周りの俳優陣も、松雪泰子、満島ひかり、新井浩文など、実力派が揃っていて良かったです。こんな微妙なコメディー映画に出揃ってていいのかと思うくらいの豪華さです。勿体無い気がする。

全体的にはゆるいコメディーという感じで、リラックスして楽しめる映画です。ゆるいのでやや退屈な感じはしましたが、「それトップガンやろ!」みたいな、パロディーにツッコミを入れられるシーンなんかもあったりしたのは楽しかったです。

感想(ネタバレあり)

ここから先は、物語の核心に触れる記述があります。まだこの映画を見ていない方はご注意ください。


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一番面白かったシーンは、浅岡春(満島ひかり)と別れたばかりの気持ちの悪い男・高橋幸一(児嶋一哉・アンジャッシュ)に、クヒオ大佐が言葉を荒げるシーンです。気持ちの悪い男が「ここは生き物の命を扱う場所だ。軍人がえばってんじゃないよ。」と、クヒオ大佐に向かって言うのですが、これに対してクヒオ大佐は感情を露わにして(そういう演技をして)言い返します。
始めのうちは「子供たちのために自分たちが戦っている。」というような、「その通りだ!」と思うような正論をぶつけていくのですが、途中から雲行きが怪しくなっていきます。友人のパイロットが死んでしまった話になっていくのですが、だんだんと「あれ?それトップガンじゃね?」ってなってきます。

映画「トップガン」では、主人公のマーベリック(トム・クルーズ)が友人を失うというシーンがあります。マーベリックの友人のグース(アンソニー・エドワーズ)が、戦闘機からの緊急射出(戦闘機が操縦不能になった際にパイロットが「パシュッ!」っと射出されるアレ)の際に、タイミング悪くキャノピーに激突して死んでしまいます。
クヒオ大佐の語る友人の死のシーンが完全にこのトップガンのシーンで、「ああ。それな・・・」ってなります。それを大真面目に感情を込めて話すものだから、聞いているこっちはたまりません。滅茶苦茶笑いました。クヒオ大佐の中で一番好きなシーンです。あとのシーンで、「おまえはトム・クルーズか!」ってツッコまれてましたね。

映画の最後の方には、クヒオ大佐の壮大な妄想シーンが挟まれていました。正直大げさすぎて面白くもなんともないシーンです。クヒオ大佐を追ってきた刑事を、官僚の偉い人がやっつけて、その偉い官僚と対決することになったところで、アメリカ海軍の兵士によって助けられます。そのままクヒオ大佐はヘリへと運ばれ、その場をヘリで離脱していくという、なんとも意味のわからないシーンです。
ですが、最初に助けてくれたアメリカ海軍の兵士が完全にチャーリー・シーンで笑ってしまいました。
クヒオ大佐 チャーリー・シーン
そのあとのヘリに乗り込むシーンなんかも、「プラトーンかよ!」ってなりました。こういう小ネタは結構笑えて楽しかったです。

もうひとつ好きだったシーンは、浅岡春(満島ひかり)と永野しのぶ(松雪泰子)が揉み合うシーンです。永野しのぶはクヒオ大佐が嘘をついていたこと知り、一緒に死のうと思い、毒キノコを混ぜた自社の弁当をクヒオ大佐に騙して食べさせます。食べ終わったところに浅岡が乱入してきて、「なぜ自分を騙したのか。なぜ自分なのか。」と問い詰めます。クヒオ大佐は窓から飛び降りて逃げ、残った女ふたりがやり合うというシーンです。

このシーンが非常に迫力があって、満島ひかりと松雪泰子の素晴らしい演技が堪能できます。臨場感の溢れる迫力シーンというだけでなく、ケンカの流れの中で気持ちが変わっていく様子も表現されています。浅岡は、なぜ金持ちでもない普通の女である自分を狙ったのかをどうしても問いただしたく、永野はなんとかクヒオ大佐を逃げさせたいと、始めは両者興奮状態の乱闘状態です。
永野が「毒キノコを食べたのだ。」と言うと、浅岡は「ズルい!吐き出しなさい!」と答えます。どちらも騙されたのになんとうことかとも思いますが、ここは両者に共感できるシーンでもありました。
そして「毒キノコだと思ってたけど、それは間違いで、実は毒キノコじゃなかった」ということが発覚すると、両者パタリと戦闘をやめてへたり込みます。急にどちらも毒気が抜けたような、気の抜けたような顔になって寝転がります。

男同士が殴りあって友情を確かめ合うというシーンは定番ですが、女同士の戦闘(殴り合いではない)もなかなか良いものでした。「友情」とはなりませんでしたが、少なくとも「共感」にはなったのではないでしょうか。
最後に永野は浅岡に言います。

「好きだったからに決まってるじゃない。あなたのことが好きだった。だから騙したのよ。」

クヒオ大佐のこともただの「詐欺師」としてではなくて、「人」として描かれているシーンもありました。北海道の片田舎で、父の暴力に怯えながら暮らしていたことを描くシーンもありましたし、子供にきつくあたる父親に殴りかかるシーンなんかもありました。それになによりも、ショボい騙しテクニックと、失敗してボロが出た時の「ええ?」っていう感じの表情が非常に人間臭くて良かったです。銀座のホステスには嘘がバレバレで、逆に遊ばれちゃったりしていました。
この人間臭さあっての、あの「好きだから騙した。」のセリフのパンチの効き具合です。クヒオ大佐の「人」としての描き方は、大変好感がもてました。

ストーリーとは関係ないのですが、日米の安全保障についての話が持ち上がっていたのは、監督の趣味でしょうか?監督が訴えたかったから強引に突っ込んできたのでしょうか?
イラクがクウェートに侵攻したキッカケとなった湾岸戦争。国連は多国籍軍を派遣し、イラクと戦闘になります。日本は憲法9条のために自衛隊を派遣できず、資金援助という形でこの戦争に貢献することを求められました。国内からは「アメリカの言われるままに金を出すなんて、日本はアメリカの属国なのか。」と非難され、国外からは「金だけ出して命を張らなかった。」と非難されました。

この日米安全保障のテーマは、しっかりと考えなくてはならないテーマではあるのですが、クヒオ大佐という映画には何の関係もありません。あってもなくても良いシーンです。しかもクヒオ大佐は、ゆったり見るコメディー映画ですし。監督のエゴで無理矢理主張を挟み込んでくる必要はなかったのではないかと、私は思いました。

まあアレです。難しいことは考えずに、スットボケた堺雅人を楽しむのが吉ってやつです。銀座のホステスに遊ばれて、「ええっ!」ってなるクヒオ大佐は最高にかわいいですよ!

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ぺんぎん

ぺんぎん の紹介

物語をこよなく愛するフリーライター。 物語ならば、映画、小説、アニメ、ゲーム、マンガなどなど、形態は問いません。ジャンルや作者に縛られない乱読派。
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