あらすじ(ネタバレなし)
フランスのプールの名から「ピシン」と名付けられたが、「おしっこ(pissing)」と同じ発音のためにからかわれたため、自らを「パイ」と名乗るようになる主人公。
パイは、動物園を経営していた家族と、その動物園の動物を連れてカナダへ行くことになったのだが、途中で船が沈没してしまう。
命からがら救命ボートに乗るも、シマウマ、ハイエナ、オランウータン、ベンガルトラと乗り合わせることに。
やがてシマウマたちが死んでしまい、パイはベンガルトラと共に大海原を漂流することになる。
感想(ネタバレなし)
狭いボートの上で青年とトラが対峙しているトレーラーを見て、「これは絶対に見なくては!」と思った人は多いと思います。私もその一人です。
お話は、小説家がパイにインタビューをする形で始まります。パイが自分の生い立ちから話し始め、回想シーンをメインにしながら、トラとの漂流の話へと語り進めていきます。
実話とお伽話のフュージョンのようなお話で、どこまでパイが本当のことを言っているのか分からなくなります。冒頭でパイが、「信じるかどうかはあなた次第」と言っているように、そのお伽話性もこの映画の魅力です。
公開当初は映像の美しさでも話題になりましたが、確かにきれいなシーンがたくさんありました。映像の方でもお伽話っぽさを演出していました。
CGが残念なシーンはたくさんあって、あまりにCG感丸出しで、シュール画像集とかに使われそうな、ついつい笑ってしまうようなシーンも結構ありました。
とはいえ、あのトラの殆どがCGだと聞けば驚きです。どれだけの手間と時間と技術(とお金)がかかったのか、想像もできません。
画面の縦横比が変わるシーンがあったんですが、あれはなんだったのでしょう。映画館でも上下左右に黒帯が入ったのでしょうか。
色鮮やかな動物たちが映っているシーンなんかは、とてもきれいです。
光を使った演出が多く、ラッセンっぽさがありました。特に夜の海のシーンは美しかったです。
アカデミー賞11部門ノミネート、4部門受賞という高評価ですが、そこまですごいとは思えませんでした。
そんなに構えずに、普通に見て、普通に楽しめる映画だと思います。
感想(ネタバレあり)
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主人公のパイが、いろいろな宗教を勉強するのが面白いと思いました。生まれがインドなのでヒンドゥー教はもちろん、いろいろな宗教が入り混じった街に住んでいたこともあって、キリスト教、イスラム教をも信仰することになります。
私はヒンドゥー教のことはほとんど知らないのですが、多くの神様がいるということで、日本のように、パイにはいろいろな宗教を受け入れる土壌があったのでしょう。
こういった宗教観が、映画のストーリーの中でも大きな意味を持っていたと思います。
嵐に船が揺れ、自らの命も危険に晒される中、雨や稲妻を見て「美しい」と思ったり、様々な危機の中でも神に感謝をすることを忘れなかったり。
変な島に辿り着いたエピソードはやり過ぎでしたが。
食料も水もなく、限界を感じ、神に「全てを受け入れる」と誓った直後に変な島に辿り着く。そこには水も食べ物も豊富にあって、ここで暮らしていけると安堵するも、実は島全体が食虫植物のような存在だと気付いてしまう。このままいたら自分は独りぼっちで死んでいってしまう。これは神が一時の休息を与え、そしてまた旅立ちなさいと言っているのだと解釈し、パイは再び船に乗って漕ぎだす。
まああれです。なんじゃそれです。パイの宗教観を表し、やや現実っぽさに偏っていたストーリーをお伽話に戻す良いシーンではありましたが、なんじゃそれとしか思えませんでした。
島全体が食虫植物って・・・。
その後、船が沈んだ原因を調査する保険屋にこの話をしても信じてもらえなかったので、パイは他のストーリーを保険屋に語ります。
自分と船員とコックと母が生き残るも、あれやこれやあって自分以外は死んでしまったというストーリーです。
主人公にインタビューをしていた小説家は、この保険屋に語ったストーリーを、「シマウマを船員、オランウータンを母親、コックをハイエナ」に置き換えた作り話だと解釈したようですが、こちらとしてはどっちが本当のストーリーで、どっちが置き換えた作り話なのかよく分かりません。
そのうえパイは、小説家に向かって「どっちのストーリーがお好みか。」と聞いちゃうし。
映像のお話を少しだけ。私は断然ストーリー重視派なので、映像の方はそれほど気にしていないのですが、この映画は気にせざるをえませんでした。
CGの技術がもっと上がっていたらというのが、正直な感想です。
素晴らしいシーンも多かったですが、残念すぎて笑っちゃうようなシーンも多かったです。
私が一番気に入ったシーンは、クジラのシーンです。夜光虫やクラゲが漂う海から、キラキラ光ったクジラがバシャーンっと跳ね上がり、優雅に弧を描きながら泳いでいくシーンです。
暗い海と星空のようなシーンは何度かあったのですが、このクジラのシーンは格別に美しかったです。
クジラのせいで食料とか水とかを大量に失うことになる辛いシーンではあるのですが、辛さと美しさが同時にやってくるのは、先ほど書いた自然の美しさと過酷さという点で似通ってもいます。
作者の(監督の?)宗教観や自然に対する畏れを表した、美しいシーンでした。
トラと一緒にどうやって暮らすのだろうと思っていたのですが、なんのことはありませんでしたね。即席のイカダを作ってそこに避難するのですね。まあ、そうですよね。食べられちゃいますし。
その後の餌を使ったトラの調教とか、その辺りはお伽話にならなくて良かったです。
お父さんの「人とトラは友達にはなれない。」と、パイの「トラにも心はある。」のやり取りから、その辺りもテーマになるのかと思ったのですが、にべもなかったです。
共に苦難を乗り越えて、パートナーだと思っていたのはパイの方だけ。
最後、トラは振り返りもせずにジャングルに消えていくシーンがそれを物語っています。
ラストはしっかりと現実感あって良かったです。
泣いて抱き合うようなシーンなんかあったら台無しですからね!
そういう意味で、パイとトラの関係性の描き方が良かったです。「なかーまばんざい!」ではなく、もっと繊細で微妙な関係性の描き方です。
トラがいたから危険な目にもあった。でもトラがいなかったら生き残れはしなかっただろう。
ここにも、真逆の物が同時に与えられるという人生観が描かれている気がしました。