業物語

小説「業物語」 西尾維新




あらすじ(ネタバレなし)

言わずと知れた大ヒットシリーズ、物語シリーズのスピンオフ的なオフシーズン集。3本立て。

「あせろらボナペテイ」
むかしむかし、あるところに美しい娘がいました。周りの人々が自分の外面しか見てくれないと嘆いた彼女は、魔女にお願いして、彼女の内面を見えるようにしてもらいました。すると、そのあまりの美しさに、周りの人々が彼女のために命を捧げるようになりました。彼女のいる場所には死体が積み上がる。彼女は一か所に留まらず、旅をすることになりますが、その旅の途中で吸血鬼に出会います。
彼女に「キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード」という名前をつけた、ひとりの吸血鬼の物語。

「かれんオウガ」
師匠に「免許皆伝」と言われた阿良々木火憐は、自分自身を知るために、山を登り、滝に打たれに行く。

「つばさスリーピング」
忍野メメを探して世界中を旅していた羽川翼。彼女が忍野メメに出会うまでに起こった、吸血鬼との出来事。

感想(ネタバレなし)

つまらなかったやつの次の本は面白いという法則が(私の中で)ある物語シリーズです。

面白くなかった傾物語のあとの花物語とか、面白くなかった暦物語の次の終物語とか・・・。そして、面白くなかった愚物語の次となったこの「業物語(ワザモノガタリ)」ですが、ビミョーでした。(愚物語の感想はこちら
始めのあせろらボナペテイは面白かったです。心に響くようなものはなかったのですが、先が気になるワクワク展開で、エンターテイメントとしてとても楽しめました。
その後のかれんオウガとつばさスリーピングに関しては、「勘弁してくれ。」と言いたくなるほど面白くなかったです。

少しだけフォローしておくと、「かれんオウガ」の方は、阿良々木火憐と忍野忍のアホっぽいやり取りが面白かったです。このコンビ、他では見れませんよ!忍がいろいろな髪型(と、いろいろな年齢)で登場するので、ビジュアル化したらかわいいと思います。
「つばさスリーピング」の方は、羽川翼と忍野メメが、阿良々木暦のことに言及しながら話を進めていくのが面白かったです。ふたりが阿良々木君のことをどう思っているのかが見えて楽しかったです。

面白かった「あせろらボナペテイ」の感想を少しだけ。まだ人間だったキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード(人間当時の名前はアセロラ姫。ただしこれも俗性)の純粋さと、彼女をさらった吸血鬼デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターの悪辣さの対比が、トンチンカンな感じで面白かったです。(名前が長いの勘弁してほしい覚えられない。)
真面目な人を不良に見せかけようとするも、ついつい真面目な一面を隠せずに、チグハグな不良になってしまうようなアセロラ姫可愛かったです。
なお、なぜだかはわかりませんが、アセロラ姫の声は能登麻美子で脳内再生されました。ありがとうございました。

物語シリーズは、全体的におふざけ要素満載にも関わらず、最後の最後に心がキュキュっとなるところが好きなのですが、業物語には前作の愚物語と同様、最後のキュキュっの部分がありませんでした。スピンオフ作品はおふざけに徹することにしたのでしょうか。だとしたらあまり期待できない。

じゃあ、次の作品を買わないかと問われれば、恐らく買ってしまうと思います。2作連続でイマイチだったから、次はもの凄く良いかもしれませんし!!ということで、続きの「撫物語(ナデモノガタリ)」と「結物語(ムスビモノガタリ)」は、2016年刊行だそうです。楽しみにしておこうと思います。

感想(ネタバレあり)

ここから先は、物語の核心に触れる記述があります。まだこの小説を読んでいない方はご注意ください。


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最初の「あせろらボナペテイ」ですが、スーサイドマスターとアセロラ姫のコンビが良いです。アセロラ姫には例の魔女の呪い(祝福)がかかっているので、スーサイドマスターが彼女に危害を加えようとすると、スーサイドマスターは自らを傷つけて自殺してしまいます。序盤の方では、毎回死んでしまうスーサイドマスターと、それを見ていたたまれなくなるアセロラ姫がスーサイドマスターに諦めるよう説得するやり取りが、チグハグ感満載で面白かったですし、後半では、なんとか自分を悪く見せかけようとするアセロラ姫と、それを指導するスーサイドマスターのチグハグ感が面白かったです。

「あせろらボナペテイ」では、この「チグハグ感」をテーマにしてもいいくらい、私はチグハグ感が気に入っています。
アセロラ姫とスーサイドマスターの関係だけでなく、スーサイドマスターと、彼(彼女)の眷属であるトロピカレスク・ホームアウェイヴ・ドッグストリングス(名前が長い!!)との関係も好きでした。忠実すぎるほど忠実な眷属のトロピカレスクが、だんだんとスーサイドマスターに意見したり、反抗したり、お母さんみたいなことを言い出したりして、よいチグハグを醸しだしてくれていました。だからこそ、最後トロピカレスクが死んでしまった時は悲しかったです。

スーサイドマスターとトロピカレスクの関係性は結構繊細で、単純に主従関係だけというわけではありませんでした。全体的にふたりの関係は面白おかしく書いてありましたしが、その中にも「絆」のようなものを感じられました。ただ、「絆」と言っても、「仲間のために!」みたいな体育会系の暑苦しい絆ではなくて、不満もあるし憎まれ口も叩くけれど、ただ近くに存在しているということが大事であるような、そんな静かな絆でした。スーサイドマスターは、アセロラ姫を食べずに、ずっとこのままの関係を築いていってもいいと思い始めていましたが、トロピカレスクが死んだことで何もかもを諦め、アセロラ姫を解放しよとします。このシーンからも、スーサイドマスターとトロピカレスクの強い絆を感じました。

最後、アセロラ姫が吸血鬼になるシーンはちょっと強引じゃなかったですか?あれだけ手も足も出なかったアセロラ姫に対して、「彼女のことを思えば」という詐欺のような方法で克服してしまうなんて。それだけスーサイドマスターの気持ちがアセロラ姫に惹かれていたと解釈することもできますが、私はちょっと不自然に感じました。「食うことと愛することは、同じ意味だった。」という一行から、惹かれていたどころか愛してしまっていたようですので、ギリギリセーフということにしておきます。

ところで、その言動から完全に男だと思い込んでいたスーサイドマスターですが、最後の一行で女であったことが発覚します。(衝撃の事実!!)
いわゆる叙述トリックというやつで、最後の最後に大どんでん返しがあるのです!が、この大どんでん返し。何の意味もない!!スーサイドマスターが女性だと分かったところで、物語にはなんの影響もない!!西尾維新さん遊びすぎです。こういう大掛かりなのに全く意味のないトリックは嫌いじゃありません。遊び心は大切です。

続いて「かれんオウガ」ですが、基本的には阿良々木火憐が山を登って、(命に関わる)トラブルに会うと忍野忍が登場し助け、一通り漫才をやるという、なんとも退屈なお話です。漫才は楽しかったです。兄の暦が「心配だから」という理由で忍を火憐についていかせていたのですが、そもそも忍がついていかなければ、あんなトラブルに会うこともなかったというオチ付きです。

このお話の最後で、火憐は周りが見えないほどの霧に遭遇します。そしてその霧の中で聞こえる「カチカチ」というスズメバチが発する警戒音。この現象が何なのかは小説内ではまったく説明がされていませんが、「蜂と言えば火憐」というくらいですから、ここが「自分自身に会う」ことを描写した場面かなと思います。ここで恐怖で動けなくなってしまった火憐は、「大丈夫だから進め」と背中を押してもらい、助けられます。忍の後日報告で明らかになるのですが、ここで背中を押したのは忍ではありませんでした。なんだかよくわからないものです。
これはなかなかゾッとする怪談話でした。良い感じの恐怖感を味わえました。「その時は気づかなかったけど、あとでよく考えたらあれっておかしくなかったか?」っていうタイプのゾクゾク話でした。

最後は「つばさスリーピング」です。これに関しては本当に語ることがない。バサ姉、メメに会えたんだね!良かったね!くらいなもの。
忍野メメを探す途中で、吸血鬼ハンターのドラマツルギーに会って、ドラマツルギーが追っていた双子の吸血鬼・ハイウェストとローライズをやっつけるお話。ドラマツルギーは、傷物語で出てきたあの三人組のうちのひとりです。ドラマツルギーもバサ姉も双子吸血鬼に捕らえられて幽閉されるてしまいます。この窮地をどうやって切り抜けたかが気になって読み続けましたが、なんだか無理のある展開で切り抜けられてしまって、なんとも納得できません。
ドラマツルギーが自殺用に奥歯に仕込んでいた「茨の棘」を使ってなんやかんやします。自身が吸血鬼であるドラマツルギーにとっては毒として作用する茨の棘も、かつて(傷物語の中で)阿良々木暦の血によって傷を癒やされた羽川翼には、予想外の作用を及ぼして超人的パワーを発揮したとかなんとか・・・。少年マンガか!!

そんなわけで期待はずれ二連発となっている物語シリーズ。次はきっと。次はきっと。タイトル的に、次の主役はきっときっと、みんなが大好きななーでこーだYO!

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ぺんぎん

ぺんぎん の紹介

物語をこよなく愛する一般人。 物語ならば、映画、小説、アニメ、ゲーム、マンガなどなど、形態は問いません。ジャンルや作者に縛られない濫読派。
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