hariyononatsu

映画「ハリヨの夏」 中村真夕

あらすじ(ネタバレなし)

奔放な母に反発する高校3年生の少女・瑞穂は、別居中の父親には心を許していた。しかし、瑞穂はやがて、父親に新しい恋人ができたことを知る。一方学校では、同級生の翔と、まだ恋とは呼べないような微妙な関係を築いていた。しかし、その翔ともすれ違いが生じ、瑞穂は自分のいるべき場所を見失っていく。思春期の多感な時期に経験する両親の別居と離婚。淡い恋心。喪失感。そして妊娠。京都を舞台にして、様々な経験の中で成長していく少女を描く青春ドラマ。

感想(ネタバレなし)

親と子の関係が、丁寧なタッチで描かれていました。

「親子の絆は何よりも強い」とか、「親が子を愛するのは当然のこと」のような、そういった陳腐なテーマを描いたものではありませんでした。真っ直ぐだけど頑固で不器用な少女と、子供を大事に思うけれどもやっぱりダメダメな親との関係が丁寧に描かれています。

思春期の時期の、「両親は凄い」から「あれ?大人って実はダメダメじゃん」からの、「ああ、親ってやっぱり凄いんだな」に移っていく心の変化を追体験したような気持ちになりました。主人公である少女・瑞穂の両親は別居中で、瑞穂は母親と一緒に暮らしているので、まずは母親を主眼に据えての観察になります。このいい感じにダメな母親を演じたのは、風吹ジュンです。ダメな母の顔も、毅然とした母の顔も、そして孫を抱く祖母の顔も、しっかりと演じ分ける素敵な演技でした。
父を演じていたのは、私の好きな俳優・柄本明でした。こちらは母親とは逆の描き方になっていました。最初は優しくて頼れるお父さんの顔を見せ、あとで普通の大人としての顔を見せていきます。相変わらずの柄本節だったと思います。

全体的に「男」の映し方が辛辣だったような気がします。どの男キャラも、情けなかったような気がします。確かに男は体裁ばっかり大きく見せて、実は中身は情けないものなのですが、もうちょっとシャキッとした男を登場させてもいいのではないかと思いました。いや、瑞穂の同級生の翔はシャキッとしていたか。翔は優しくてしっかりとした好青年でした。

その杉本翔を演じたのは、高良健吾です。なんと、高良健吾の映画デビュー作ですよ!水泳部のエースとして、素晴らしい競泳水着姿を披露してくれていました。重要な役柄ではあるのですが、あまり演技としての見せ場がなくて、演技としての印象は残っていません。残念です。

主演の瑞穂は、於保佐代子が演じていました。この漢字、読めるわけがない。「おほさよこ」と読むんですね・・・。なかなか表情豊かな演技を見せてくれていて、好感は持てました。なぜかナレーションになると鼻声で滑舌が悪いのが気になりましたが、演技としては悪くなかったと思います。

「ハリヨ」という、綺麗な水でしか生きられない魚の生態が出てくるんですが、これは必要だったのでしょうか?卵を産み、1年で死んでしまうハリヨ。瑞穂の心の変化と、ハリヨの様子がリンクして描かれる場面もあるのですが、別にハリヨがいなくても大丈夫なんじゃないかと思いました。タイトルにもなっているくらいなので、一体どんな重要な要素になっているのかと思って見ていたのですが、「うん?あれ?」っていう感じでした。ただ、可愛い魚であったことは確かです。

感想(ネタバレあり)

ここから先は、物語の核心に触れる記述があります。まだこの映画を見ていない方はご注意ください。


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高校生での妊娠、出産、しかもシングルマザーの道を選ぶという結構ショッキングなテーマの映画ではあります。しかし、どちらかというと、ショッキングな出来事を通して、少女がどう成長していくかを描いた青春映画という印象を受けました。

酔っ払ってはしゃぐ母親も、若い女の子と付き合う父親も、瑞穂の意見も聞かずに別居も離婚も決めて、瑞穂はそれに反発して、自ら「両親」という居場所を見失ってしまいます。それで傷ついて、同級生の翔にすがって、そして翔を傷つけて、ここでも自分の居場所を見失ってしまいます。高校生の瑞穂にとって、それほど多くの居場所はないので、寂しさに暮れて母親の友達と肉体関係を持ってしまいます。
この一連の流れが、非常に丁寧に描かれていて説得力がありました。女子高生の皆さま方は、本当に注意しなくてはいけないと思います。寂しくて辛い時に、ちょっと優しくしてくれた男にコロッといってしまわないように。

しかし、この母親の友達のアメリカ人、酷い描かれ方でした。初めは優しくて気さくないいヤツみたいな感じだったのに、途中からは本当にダメ男でした。「優しい」というよりは「弱い」という感じで。ストレートな瑞穂な質問をのらりくらりと答えずにかわし、最後には「君には分からない。」とか言ってしまうし、挙句の果てに女子高生に手を出してしまいますからね。「君には分からない。」って子供扱いしたくせに。受け入れるつもりなんてこれっぽっちもなかったくせに。
しかも瑞穂が「赤ちゃんができた。」と言いに行ったら、「ごめん。」って。ごめんって何だよ!瑞穂の気持ちを聞く前に、子供を堕ろすように説得始めちゃうし。「君は大学へ行って、勉強をするべきだ。」は、確かにその通りですけど!

酷いといえば、父親も結構酷い感じに描かれていました。人間臭いといえば人間臭いのですが(良い意味で)、もうちょっと良いところも映してあげればいいのにと思いました。「若い女の子を選んで、家族を捨てた」ようにしか映りませんでした。ただ、その新しい女の人との間にできた赤ちゃんに接する時の感じや、瑞穂に対して自分がダメダメであることを伝えるシーンなんかは、いい感じのダメさで好感が持てました。
瑞穂が赤ちゃんを連れて父親の元を訪れ「2,3日泊めてほしい。」と言ったとき、父親は「自分にも新しい家族ができた。おまえも母親になったんだから、わかってくるだろ?」と言って断ります。断ったのは、瑞穂のことを思って心を鬼にしたのでしょうか。それとも保身のためだったのでしょうか。ここまでの父親の描き方から、どちらとも取れてしまって、ちょっと判断ができませんでした。

そもそも、なんで「2,3日泊めてほしい。」なんて言いに行ったんだろう。瑞穂に子供が出来て以来、母親はシャキッとした母親に変わっていました。瑞穂に寄り添い、赤ちゃんの世話を引き受け、瑞穂をしっかりとサポートしてと思うのですが。瑞穂は逆に、自分の無力感に苛まれてしまったのでしょうか。

すみません、実は子供が産まれてからの流れは、ちょっと追いつけなかった感じがしました。私の経験不足でしょうか。全体的に微妙な感情描写が多かったので、経験不足だと行間が読み切れないのかもしれません。瑞穂が赤ちゃんの父親であるアメリカ人に見せに行くシーンも、「なんで?」って思いましたし、瑞穂が睡眠薬飲んでゲーゲー吐くシーンも「なんで?」って思いましたし、死んでしまったハリヨを川に流す時も「なんで赤ちゃん抱いたまま川に入るの?」って思いました。「なんで?」尽くしです。危うく赤ちゃん殺すところだったじゃないか!まったく!!!

ですが、最後、赤ちゃんをベビーカーに乗せて散歩をしている時に、大学生になった翔とすれ違うシーンは爽やかでした。「泳ぎを教えて欲しくなったらいつでも連絡しろ。」と言う翔に対して、瑞穂は「私、ひとりで泳げるようになったよ。」と返します。瑞穂の成長を描いた、良いシーンだと思いました。

瑞穂は「大検を受けて大学に行く。」とも言っていました。母親のサポートがあるとはいえ、子育てと大学の両立は茨の道でしょう。しかし、たった1年前まで我がままな子供だった瑞穂が、こんなに大きく成長しました。駄々っ子の子供だった頃(1年前)から持っていた真っ直ぐさを持ってすれば、困難にもきっと立ち向かえる。頑張れ!!頑張れ!!
と、最後には応援したくなるような素敵なキャラクターだったと思います。

話がもの凄く前後しますが、瑞穂が赤ちゃんを初めて抱くシーンは感動的でした!瑞穂と母親と妹と赤ちゃんと、顔を寄せ合うシーンは美しかったです。
ハリヨの夏
新しい命の誕生は、なぜにこうも人の心を揺さぶるのか!映画は、「命を受け継ぐ」こともテーマになっています。先ほど「ハリヨがいなくても大丈夫なんじゃないか」と書きましたが、この「命を引き継ぐ」ことの説明でハリヨが必要だったんじゃないかと思います。でも、ハリヨがいなくても十分に伝わったし、他の生物でもよかったわけで・・。なぜハリヨだったのか!?

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ぺんぎん

ぺんぎん の紹介

物語をこよなく愛する一般人。 物語ならば、映画、小説、アニメ、ゲーム、マンガなどなど、形態は問いません。ジャンルや作者に縛られない濫読派。
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