カメラを止めるな!

映画「カメラを止めるな!」 上田慎一郎

あらすじ(ネタバレなし)

ゾンビ映画の撮影中、監督は女優に向かって「本当の恐怖を見せろ」と、何度も撮り直しを要求する。
そんな中、撮影現場に本物のゾンビが現れるのだが、監督はここぞとばかりに撮影を続行しようとする。

感想(ネタバレなし)

これはホラーか、コメディーか、ヒューマンドラマか。

あらすじだけ見るとB級ゾンビ映画なのですが、内容はそれだけではありません。
テーマとなる要素はとても多いです。ジャンル分けするのが難しい、異色の映画です。

ネタバレをせずにこれ以上ストーリーに触れることは難しいので、ストーリーに関しては後ほど。

「カメラを止めるな!」は、低予算で制作され、口コミで人気を獲得し、次第に多くの劇場で上映されるようになった映画です。
いわゆる、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」や、「パラノーマル・アクティビティ」系統です。ゾンビ映画だし。

ただ、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」や「パラノーマル・アクティビティ」の時は、低予算での制作でもメジャー映画と「勝負ができる」という感じでしたが、「カメラを止めるな!」」は、メジャー映画を「はるかに凌ぐ事ができる」という印象を持ちました。
そんじょそこらの良い映画よりもずっと良いです。

低予算ということで、出演している俳優さんたちも無名の方々です。
特に印象的だったのは、秋山ゆずき(あきやまゆずき)という女優です。
かつては、橋本柚稀(はしもとゆずき)という名義でアイドルをしていたそうです。「アイドル→女優」の流れは99%地雷のゴミ演技であることが多いのですが、秋山ゆずきは非常に良かったです。

序盤で骨太な演技を見せてくれるのですが、その後は多彩な表情を見せてくれます。
いろいろな表情を作らなければならない難しい役を、しっかりとこなしていました。
非常に幅広い演技ができる、実力のある女優さんだなと思いました。

全然関係ない話をひとつ。
エンディングで流れる「Keep Rolling」という曲ですが、完全にジャクソン5です。
アニメ「ゆるキャン△」のOPもそうでしたが、最近はジャクソン5がアツいのでしょうか。特に「I Want You Back」。

良い映画だったから他の人にも見てもらいたいけど、映画の魅力を伝えようとするとネタバレになってしまうという、なんとももどかしい映画です。
で、結局「面白いから見て!」っていう語彙力の乏しい薦め方をするしかなくなってしまいます。
私がここで言えることは、「映画にはちょっとうるさい」という人も、「基本メジャー映画しか見ません」という人も、どちらも「うん、良い映画だった!」と思えるような映画だったということだけです。
「カメラを止めるな!」がちょっと気になっているという人は、こんなところでウダウダ前情報を集めていないで見てみると良いと思います。
あれやこれやと調べないで見た方が、ずっと楽しめると思いますよ!

感想(ネタバレあり)

ここから先は、物語の核心に触れる記述があります。まだこの映画を見ていない方はご注意ください。




















私は泣けてしまいました。

笑いどころが多く、コメディー色は強かったですが、なんだか泣けてしました。
「家族愛」や「クリエイターの想い」のようなテーマが含まれていたからです。

「コメディーだけど家族愛がテーマになっていて泣ける」といえば、「ホーム・アローン」や「ミセス・ダウト」など、ハリウッド映画の十八番ではあるのですが、それらとは違った趣があったと思います。
なんというか、笑いの仕掛け方がテクニカルです。しっかりと伏線を張っておいて、一気に回収しながら笑いを取っていくという感じでしょうか。
イメージとしては、三谷幸喜のコメディー映画のような感じだと思います。

構成も面白かったです。

始めの「ゾンビ映画」シーンが終わってエンドロールが流れた時は、正直言って絶望しました。
開始5分でオチが分かってしまうし、B級ゾンビ映画感は面白かったですが、しょっぱいストーリー展開はやっぱりしょっぱいし・・・。
開始からとにかくカットが切れなくて、「すげー、これ、終盤でNGだしたら辛すぎ」とか「全然切れないけど本当にワンカットなの?ワンカットに見えるだけじゃないの?」とか、「あー、それでタイトルがカメラを止めるななのか」とか考えているうちにエンドロールが流れます。

このタイミングで絶望です。「え?何?ワンカットで撮ったのがスゲー的な映画なの?」「は?キレそう」「マジゴミ映画」とか思いました。たぶん、多くの人が同じことを考えたんじゃないかと思います。
でも、ここからが映画の本当のスタートでした。

というか、大きく分けて3部構成でしたね。
1、完成した映画パート
2、映画製作準備(伏線張り)パート
3、映画撮影(伏線回収)パート

はじめに完成した映画を見せて、「あの時のあれは、実はこういうことだったのだよ」という形で解説していく構成が非常に面白かったです。

「この映画は二度はじまる」というキャッチフレーズがついていたようですが、むしろ3回始まってましたね。
映画撮影パートの「お前の人生嘘ばっかりだよ!」のあたりが本当に本当のスタートだったように思います。

「早い、安い、質はそこそこ」というフレーズで自分を売り出していた日暮監督でしたが、クリエイター魂は死んでいませんでしたね。
生きるために、家族を養うために、映画づくりに妥協しながら生きてきた日暮監督でしたが、「役者」という仮面をかぶった途端に本心が出ました。
仮面をかぶることで本心が出るというのも、なかなか皮肉的で面白いです。

30分のノーカット生中継のゾンビドラマ「ONE CUT OF THE DEAD」で主演女優を務めることになった松本逢花は、役者としての意識の低いアイドル女優でした。
何かにつけて「あれはできない」「これはNG」などと注文をつけ、「よろしくでーす」と言って適当に仕事をしていました。

日暮監督は笑顔で注文を聞いていましたが、心の中では思う所がたくさんあったのでしょう。
ドラマの中での監督役という仮面をかぶった途端、松本逢花の演技をボロクソにけなし、挙げ句に松本逢花の人生そのものをディスるというハジけっぷりでした。

松本逢花を演じた秋山ゆずきは、適当な仕事をするアイドル女優の役も、監督にボロクソに言われてメンタルボロボロになる表情も、それがきっかけで本物の女優に化けていく過程も、本当に見事に演じていました。
カメラを止めるな!をきっかけにして、松本逢花には是非ブレイクしてもらいたいです。

松本逢花の人生をディスった後は、「ONE CUT OF THE DEAD」の主演俳優を務めた売れっ子イケメン俳優・神谷和明にも暴言を吐きます。
神谷和明は、エセ大物俳優っぽさ全開でした。
「今集中してるんで」とか、「ゾンビが斧を持って襲ってくるのが納得できない」とか、ちょっと意識が高い系のことを言っては日暮監督につっかかっていました。
その神谷和明に対して、「これはオレの映画なんだよ!リハの時からグダグダ言いやがって!」という罵声を浴びせかけた時は、それはもう笑いました。

このあとはもう伏線回収コメディー祭りでしたね。
アルコール中毒の俳優や、硬水を飲むとお腹を下してしまう役者や、腰の弱いカメラマン等、笑いどころは満載でした。
劇場内でも、所々で爆笑が起こっていました。

中でも好きだったのは、日暮監督の妻です。

日暮監督の家族は映画一家で、妻は元女優、娘は映画監督志望でした。
娘が映画製作に熱い想いを持っていることはすぐに判明します。
映像制作の現場で、おそらく小学生にもなっていない子役に対して「目薬なんて使ってはだめだ」とか言ってしまったり、その子役の母親に「現場は戦場なんです。そこに親が入ってくるのはどうかと思います!」と言ってしまったりします。
情熱がすごすぎて、周りからも疎まれるほどです。

あんなに腰の低い日暮監督と、優しい日暮監督の妻との生活で、なんでこんなにアツアツの娘ができあがったのだろうと思ったら、なんのことはありませんでした。

日暮監督は先程書いた通りですし、日暮監督の妻は演技を始めるとヤバイ人でした。
役に入り込みすぎると、台本そっちのけで演技をします。
「ONE CUT OF THE DEAD」の中でも、突然トランス状態になり、目もうつろな危ない演技をし始めました。

「あー、やっぱり家族なんだな」と思いました。
日暮監督の暴言も、妻のトランス状態も、娘のアツアツも、どれも「笑いどころ」だったはずなのですが、なんだか家族の絆のようなものを感じて泣けてしましました。

日暮監督の「クリエイター魂」と、この「家族の絆」という部分は、本当に良質のヒューマンドラマだったと思います。

あまり関係ないですが、日暮監督の娘のセリフの中に、すごく好きなセリフがありました。

腰の悪いカメラマンが撮影の途中で腰をやらかしてしまい、その後は弟子(後輩?)の女の子がカメラを持つことになります。
この女の子はいかにもサブカルっぽい感じの女の子で、「これぞB級ホラー映画!」っていう感じのカメラワークを好んでいました。
そのカメラワークが入った瞬間に日暮監督の娘が、「なにこれダサかっこよくなった。カメラ変わった?」というのですが、このセリフ、私は大好きです。

映画の監督をやる人って、なんだかB級ゾンビ映画好きな人多くないですか?
「無名監督時代は、とりあえずゾンビ映画作ってる」みたいな。「自主制作といえばゾンビ映画」みたいな。
完全に私のイメージですが、なんだかそんな気がするのです。

で、日暮監督の娘の「ダサかっこよくなった」です。
すごく「映画監督を目指してる」っぽいです。カメラが変わったことにすぐに気づくところなんかは、よく見てるし、よく勉強してるなっていう感じがします。
この一言に、「本気で努力をしている情熱のある無名監督(志望)」という感じがギュッと詰まっていたような気がします。

さて、「ONE CUT OF THE DEAD」はいよいよクライマックスへと向かいます。

最後はカメラをクレーンで吊って、4mの高さから撮影をする予定でした。
ですが、そのクレーンはトラブルで使えなくなってしまいます。
日暮監督は「このシーンは必ず高所から撮らなければならない」と主張しますが、結局は諦めてしまいます。

しかし、ここで日暮監督の娘は、台本の最後のページに貼ってある写真を見つけます。
そこには、幼い頃の自分と日暮監督が写っていました。

妥協をして「質はそこそこ」の映像ばかり撮っていた父親を、娘は嫌っていました。
それはそうです。あんなに情熱的な監督志望が、父親の作ったへっぽこ映画を好きになるわけはありませんし、軽蔑していたとしても不思議ではありません。

しかし、「ONE CUT OF THE DEAD」の現場での父親の姿を見て、多くのことに気がつきます。
父親にもクリエイターとしての情熱があったこと。その情熱を殺して妥協してきたのは何のためだったのかということ。

だから娘は諦めませんでした。
動ける人間をみんな集めて、組体操のピラミッドを作り、クレーンの代わりにするというアイデアを提案します。
父親の情熱を殺さなかったのです。

そして最後のシーンは、キャスト、スッタフ全員の力を合わせて撮影します。
リハーサルの時はあんなにバラバラだったチームが、ひとつにまとまりました。

最後のクライマックスは、「娘と父の関係」にも感動しましたし、「一つのものを作り上げようとするチームの関係」にも感動しました。
正にクライマックスです。

全体的にはコメディー色が強く、「笑い」も上質でしたが、私は「カメラを止めるな!」をヒューマンドラマとして鑑賞しました。
どちらに主軸をおいても楽しめると思います。
ただし、ゾンビ映画を期待して見ると楽しめない。

こういった「低予算で成功した映画」は、予算をバンバンつぎ込んだ続編が出がちです。そして、ゴミ映画となりがちです。
「カメラを止めるな!2」が出ないことを、切に願うばかりであります。




ぺんぎん

ぺんぎん の紹介

物語をこよなく愛する一般人。 物語ならば、映画、小説、アニメ、ゲーム、マンガなどなど、形態は問いません。ジャンルや作者に縛られない濫読派。
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