うさぎパン

小説「うさぎパン」 瀧羽麻子




あらすじ(ネタバレなし)

お嬢様学校の女子校から、共学の高校へと進学した優子。優子は幼い頃に実の母を亡くしていて、父の再婚相手のミドリさんと暮らしている。気の合う家庭教師との出会い。パンを介して仲良くなった富田君への淡い恋頃。そんなある日、優子の前に思いがけない人物が現れる。
第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞作。

感想(ネタバレなし)

これは、高校生同士の初々しい恋を眺めながらニヤニヤする作品です。

ジャンルとしては、多感な高校生がいろいろな人と出会い成長してく、成長ストーリーです。ですが、多くの物語にあるような劇的さはありません。ただ淡々と優しい時間が流れていきます。文体も柔らかく、難しい言葉も出てこない、読みやすい小説でした。ただ、少し軽すぎるかなとも思いました。文章が柔らかくて口当たり(?)がいい分、心に響く言葉はなかったように感じます。読んで優しい気持ちになる分には程良い感じ。ストーリーを追いたいのなら、ちょっと物足りない感じ。

優子の心の変化や成長の描かれ方が、緩やかで優しかったです。優子はいろいろなことをゆっくりと心に消化できるタイプのキャラクターで、気持ちの変化も緩やかです(ワンテンポ遅いとも言う)。なので、小説の中で起こる出来事や、周りの人たちの気持ちをゆっくりと受け止めることができます。この優子のキャラクターが、恐らく小説全体のゆっくりと優しい雰囲気を作り出しているのだと思います。

優子の周りに登場するキャラクターも、一風変わっているけれども、一風変わっているなりの優しさを見せてくれます。特に優子と仲良くなる富田くんのキャラクターは魅力的で、かわいい男子高校生そのものでした。少し惚けてて、女の子の気持ちにも鈍感で、大きな夢を持っていて、不器用だけど優しい。優子と富田くんの醸し出す空気は、柔らかくてかわいかったです。

ということで、初々しい恋にニヤニヤする作品です。いや、本当はもう少しちゃんとしたテーマがあります。はい。

私が買った文庫本には、「はちみつ」というスピンオフ作品が収録されていました。

優子の家庭教師になった美和ちゃんの友人・桐子が主人公のお話。
桐子は大好きだった彼氏と別れてから、パンが食べられなくなってしまいます。パンには彼氏との思い出が詰まっていたので、精神的にパンを受け付けなくなっていました。ずっとその状態が続いていたのですが、思いもかけない人物によって、気持ちが変化していきます。

こちらのお話も緩やかで優しいお話でした。本編のうさぎパンもかなり「日常風景を淡々」という感じだったのですが、こちらの「はちみつ」の方が、更に日常風景の感じでした。日常に隠れている優しさのようなものを感じます。

正直、どちらのお話も私にはちょっと物足りなかったんですが、そもそも「うさぎパン」というタイトルのかわいさに惹かれて買った本でしたので、その役割は果たしてくれたように思います。いやいや、「うさぎパン」っていうタイトル可愛すぎでしょう。そして何よりも、かわいかったなー!高校生カップル!

感想(ネタバレあり)

ここから先は、物語の核心に触れる記述があります。まだこの小説を読んでいない方はご注意ください。


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日常を淡々と描いてはいるのですが、幽霊が出てきましたね。不思議系の小説とも言えるでしょうか。しかも唐突に現れて、唐突に消えてしまった。

優子が幼い時に死んでしまった、優子の実の母・聡子は、優子の家庭教師の美和ちゃんに乗り移る形で登場します。美和ちゃんに遠慮して短時間しか出てこないところとか、なんというか、凄く人間臭い幽霊でした。この母親との再会が、優子の成長の大きな役割を果たしたのは間違いないでしょう。恋愛観や人を見る見方が変わったように感じます。

さて、この聡子は、優子の父のことを大変良く言っておりましたが、物語には全然登場しないこの「優子の父」という人物が、私には鬼畜中の鬼畜としか思えませんでした。
優子の父は、聡子と結婚する前からミドリと愛人関係だったというじゃないですか!しかも、ほぼ同時に妊娠させてる!
挙句、聡子の産んだ子供が死産であったことを隠し、ミドリの子供を聡子の子供だと偽り、共に育てたというじゃないですか!もちろん、これは「優子の父親」なりの優しさだったのでしょうが、これはちょっと酷すぎると思います。

結果的には、聡子は「3年間優子を育てられて幸せだった。」と言っていますが、それは結果論。どんなドロドロの血みどろストーリーに変貌してもおかしくない危うさがありました。小説自体が優しいお話だったので、そんな血みどろはお首にも出ませんでしたが。

ということで、「うさぎパン」の中で私が最も気になったのは、ミドリさんの気持ちです。ミドリは優子を産んだあと、「ひとりで育てるよりも、両親がそろっているほうがいいに決っている。」「この子が立派に育ってくれるのなら、わたしは一生会えなくてもかまいません。」といって、「優子の父」に優子を託します。
全体的に淡々としたストーリーの中で、このシーンだけは印象的でした。ミドリはどんな気持ちでこのセリフを言ったのだろう。

そして聡子は死んでしまい、ミドリは「優子の父」と一緒になります。そして優子に、「あなたは聡子の子供」と言い続けて、優子が高校生になるまで育ててきたのです。自分の実の子供なのに。この十数年間、どういう想いで優子を育ててきたのでしょうか。いつか本当のことを優子に告白するのでしょうか。その時のミドリはどんなふうに打ち明けるのでしょうか。いつ、どういったタイミングで打ち明けるのでしょうか。これからの優子とミドリが気になって仕方がありません。これだけで一本物語が書けそうに思うくらい、「これから」という部分を残して終わりました。

物語の本編の方も、優子と富田くんが付き合い始め、これからの関係を暗示させただけで終わりました。

優子は小さい時に、お気に入りのうさぎのぬいぐるみを持っていました。聡子は、好き嫌いの多い優子のために、料理の形をうさぎにしたり、ケチャップでうさぎの絵を書いたりして、優子に食べさせようとしていました。母親の愛情を感じる、微笑ましいエピソードです。
だから、優子は「動物の形をしたパン」といったら「うさぎパン」を思い浮かべたのです。母が作ってくれたうさぎパン。
そして優子は、聡子の棺にその一番のお気に入りだったうさぎのぬいぐるみを入れます。

忘れていた思い出。大切な想い。こういった、優子の芯となる部分をこれから富田君に話すぞっていうシーンで物語は終わります。
ミドリに関しても、優子と富田君に関しても、これからを感じさせて終わる終わり方は好きでした。

ここまでの感想に、超重要キャラクターであるはずの、家庭教師の美和ちゃんの話題が出てきていません。美和ちゃんは、高校生という微妙なお年頃の優子が、母や先生には相談できないことを相談できる、大切な存在です。優子の成長を描く上では、かなりの重要人物です。ですが、美和ちゃんが登場しなくても、この物語はなんとかなります。
人生において、成長において、自分の中での重要人物っているじゃないですか?仮にその人たちと出会わなかったとしても、自分の人生がもの凄く変わってしまうことってないと思うんです。でも、その人達の出会いがあったから、今の自分が出来上がっている。絶対に出会わなきゃいけなかったわけではないのだろうけれども、その人達のおかげで今の自分がいる。
優子にとっての美和ちゃんとの出会いや、聡子との再会は、そういう類のものだと思うんです。大げさな物語のような、劇的なイベントはないんですが、その人達の出会いによって、確かに優子が成長しているっていう感じがリアリティーがありました。
淡々とした日常で、優子が成長しているというリアリティーがありました。

さて、スピンオフ作品の「はちみつ」についても少しだけ書いておこうと思います。
まず、桐子の元彼氏ですが、これがどうしようもない男にしか思えませんでした。一貫性のない主張。フラフラとした落ち着かなさ。確かに恋愛は理屈ではありませんが、これはなかなか、ダメな男にひっかかっちゃう典型的乙女でしたよ、桐子さん。

そんな桐子が、ふとしたキッカケで、吉田先生と5日間お昼ごはんをご一緒することになります。彼氏と別れたショックで、ちゃんとした食事を体が受け付けなくなった桐子のコンビニ弁当と、吉田先生のしっかりとしたお弁当。どんなデコボココンビになるかとも思って読んでいましたが、なかなかのデコボコでしたね。

この吉田先生というキャラクターが良かったです。吉田先生は桐子が務めている大学の先生で、理系の研究者ということもあって、変わった人でした。キッチリとしたお弁当を作った来たり(これ、ちゃんと言及してなかったけど、本人が作ってきたんですよね?)、ちょっとした軽い会話を真面目に受け取っていたり、なかなか奇抜なキャラクターでした(すごくおっとりした人ですが)。

でも、吉田先生のこのちょっと変わった視点が、桐子の気持ちに変化をもたらすことになったのでしょう。自分の目の前しか見えていなかった桐子に、目に見えない広い部分を見ることに気づかせてくれました。街が一望できる場所で、一緒にお昼ごはんを食べながら気づかせてくれました。こういう淡々としたシーンに、気持ちを変えてくれるちょっとしたキッカケを入れてくるのが、この小説の魅力だと思います。ちょっと気持ちの方向が変わっただけなのに、それがその後の大きな変化を思わせるような。そして思わせたところで物語に幕を引く。
優しい作品です。

「うさぎパン」にも「はちみつ」にも、美味しそうなパンがたくさん登場しました。影響せれやすい私は、今無性にパンが食べたいです。コンビニのじゃなくて、パン屋さんで焼いたパンが食べたいです。うさぎパンのような菓子パンもいいですが、本格パンが食べたいです。まずは近所のパン屋さんから開拓しようと思います。

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ぺんぎん

ぺんぎん の紹介

物語をこよなく愛する一般人。 物語ならば、映画、小説、アニメ、ゲーム、マンガなどなど、形態は問いません。ジャンルや作者に縛られない濫読派。
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