電脳コイル

アニメ「電脳コイル」




あらすじ(ネタバレなし)

小学六年生の小此木優子(おこのぎゆうこ)は、金沢市から大黒市へと引っ越してくる。優子が暮らす近未来では、メガネ型のウェアラブル端末が普及していて、メガネを通して仮想空間を楽しむことが出来た。大黒市にはなぜか古い仮想空間が多く存在していて、「イリーガル」と呼ばれる謎の電脳生物まで存在していた。そのイリーガルを追う天沢勇子(あまさわゆうこ)が優子のクラスに転校してきてから、優子は仮想空間を巡る数々の不思議な出来事に遭遇していく。

感想(ネタバレなし)

心の奥に潜むものを探っていく、心理的作品でした。

各方面で非常に評価の高い「電脳コイル」ですが、テーマとしてはやや使い古されていたように感じました。お偉いさんたちがしたり顔で、「人間の心の奥底にある感情を、目に見える形に変えて表現されている。」とかいう評価を下しそうな作品です。実際にその通りで、「アニメ」という形でこれほど人の心の奥底を描いたということが素晴らしいです。ただ、物語全体としては「ちょっといい話だった。」っていうのが、正直なところです。期待値が高かった分、ちょっと厳し目な評価になりました。

NHK教育で放送されたということなのですが、物語の内容は完全に大人向けで、「子供はすっこんでろ!」っていう感じの、中身の濃い物語です。ですが、随所に散りばめられている「笑い」のシーンは、完全に子供向けです。獣の奏者エリンなんかもそうなのですが、NHKで放送されるアニメは「重厚なストーリーに子供向けな笑い」のものが多いように思います。「子供も大人も、一緒に見てどちらも楽しめる」を狙っているのかもしれませんが、ちょっと中途半端に感じます。
子供が見れば、「笑えるけどストーリーは難しくてよくわからない」ですし、大人が見れば、「ストーリーは良いけどギャグが全く笑えない」です。

少し話が飛びましたが、つまりストーリーはやや複雑です。複雑だし切ないし優しいし、かなり重いです。
そもそも設定が近未来で、しかも日常的に仮想空間にアクセスしているという設定なので、「これどういうことなのー?」って思うことが多いです。しかも説明とかは結構後回しで、物語が進んでいく中でゆっくりと「ああ、そういうことかー。」と納得してことになります。しかも説明されるというよりは、物語を通してなんとなく納得していく感じです。物語に集中していないと、あっという間に置いて行かれてしまいます。集中集中!!

物語はずっと「仮想空間の謎解き」のような形で進んでいきます。「そもそも仮想空間の設定すらよく分かっていない」という私たち視聴者を巻き込みながら、キャラクターたちが、ホラーミステリーテイストで事の真相を探っていきます。そういったゾクゾクハラハラな展開も終盤では一転、人の心の奥底を描く、クラシックテイストな純文学の様相を呈していきます。いかにもお偉いさんがたを唸らせそうな内容ではありませんか!

エンターテインメントとしても純文学としても楽しめましたが、一般的に評価されているほどではなかったというのが私の正直な感想です。ただ、これは期待値が高かったから厳し目な感想になったということで、純粋に作品自体は良かったです。やや中だるみする部分もありましたが、全体を通して「エキサイティング」という意味でも、「真面目な話」という意味でも楽しめました。

感想(ネタバレあり)

ここから先は、物語の核心に触れる記述があります。まだこのアニメを見ていない方はご注意ください。


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電脳ペットであるデンスケが、メガネを通してのみ見える、触ることもできない存在であることを始めは全然理解できなかった私です、こんにちは。
優子(以下ヤサコ)が大黒市に引っ越して来てからしばらくは、いろいろなエピソードを通して世界観や設定を視聴者に馴染ませていくじゃないですか?友だちになったフミエと、ダイチ率いる大黒黒客のメンバーたちと、勇子(以下イサコ)と電子戦を繰り広げる話とか、仮想空間の歪みが原因でできるメタバグを集める話とか、サッチーとかキュウちゃんとかに追いかけ回される話とか。そういったエピソードを通して、ゆっくりと世界観に馴染んでいける作るになっていたのに、頭の固い私はなかなか馴染めず、うんうん悩みながら見ていました。うんうん悩んだ上に、完全には理解できていないと思います。

そんな親切な作りになっていたにも関わらず、「ああ、こういうの要らないから、早くストーリー進まないかなぁ。」なんて思っていましたごめんなさい!子供向けアニメなので仕方がないのですが、前半はちょっと子供っぽすぎて「これ大丈夫なのか?」と思いながら見ていました。ですが、そんな子供っぽいストーリーの中にも、イリーガルや、ヤサコの所属する「暗号屋」という存在や、電脳メガネを開発したメガマス社の良くない噂なんかがチラホラと混じっていて、「これから何かが起こりそう。」という気がして、気が抜けませんでした。「これから何かが起こりそう。」の部分がちょっと長すぎた気もしますが。

一転、終盤はちょっとストーリーが速すぎて、ついていくのが大変でした。私が序盤でなかなか設定に馴染めなかったせいもあるけど。いろいろなピースが頭の中でどんどんハマっていって、世界観の全体像が見えてくると同時に、ヤサコとイサコの心の奥までが描き出されてしまって、それはもうテンヤワンヤでした。

メガマス社の前身であったコイル社が、イサコの心の治療をするために作った空間。それが「古い空間」と呼ばれる「コイルドメイン」の正体でした。
イサコは幼い頃に交通事故で兄を失っており、その心の傷を癒やすために、イサコとイサコの兄が子供のままに仲良くいられる空間を作りました。しかし、意図せずヤサコがその空間にアクセスしてしまい、ヤサコはそこでイサコの兄に出会いキスをします。イサコは「嫉妬」という感情を元に、もう一人の人格「ミチコさん」を作り出し、それ故に、破棄されるはずだったコイルドメインは形を変えて存続することになります。

「イマーゴ」と呼ばれる、人体に直接メガネ端末とアクセスできる機能を組み込まれた人間が、偶然コイルドメインにアクセスしてしまい、実際の体と仮想の体が離れてしまい事故に遭うという不幸が起こります。子供たちは「あっち側」とか「ミチコさんに連れて行かれる」といった都市伝説なような噂を流布し、メガマス社は真相の隠蔽を謀ります。

それにしてもメガマス社悪いなー。これは完全にリコール隠しってやつじゃないですか。カンナの事故の真相を探っていたハラケンなんか、企業の闇を暴こうとする正義の味方ですよ!メガネ危ない!!

物語の終盤、「メガネは危ないから」と言って、大人たちが子供たちのメガネを取り上げるエピソードは凄く好きです。ヤサコの母はヤサコを抱きしめて、「温かい?柔らかい?この感触が現実。手で触れられるものが現実。」と言って、ヤサコにメガネを使わないよう言います。ダイチの父親は頭ごなしに怒鳴ってダイチのメガネを取り上げてしまうのですが、ヤサコの母のように、こうやって子供を想い、子供に理由をしっかりと説明していくことはとても大切だと思います。ヤサコの母の優しさを感じる、温かいエピソードです。まあでも、お母さん間違ってますけどね。

ヤサコは、イサコの仮想の体がコイルドメインに取り残されてしまっていることなどに悩み、心の痛みを感じます。そしてヤサコは気がつくのです。心の中にあるこの痛みは手で触れることはできないけれども、確かにそこにある現実だと。お母さんが理由をちゃんと説明したからこそのヤサコの気づきですし、成長です。ヤサコはちゃんと考えて、自分の意志で自分の進む道を決められるようになりました。進む道を決めてからのヤサコは一直線です。大黒市に引っ越してきたばかりのときのような、誰かに引っ張っていってもらわないとどこにも行けない女の子ではなくなりました。

周りの人たちの協力を得て、ヤサコはコイルドメインにアクセスし、イサコを連れ戻します。イサコは過去を受け入れ、あの時生まれた「嫉妬」ともケリをつけ、現実の世界へと戻ってきます。ヤサコが手を引いて連れ戻すのではなく、ヤサコの声に反応して、イサコが自分の力で戻ってきたことに意味があると思います。

これはエンディングもエンディングの超ラストのシーンですが、ヤサコは「ミチコさんってなんだったんだろう。私と天沢さんがミチコさんを生んだあの時の気持ち。切なくて、悲しくて、それに・・・。」と言い、それを引き継いでハラケンが「・・・ちょっと苦しい。その気持ちって・・もしかして・・・初恋かな・・・?」と言います。そしてふたりで赤くなるという「リア充爆発」エピソードなのですが、あれだけ嫉妬と憎悪が溢れる描写をしたミチコさんに「初恋」と名付けてしまうところが、この作品の強く評価できるところだと思います。こういった複雑な感情を、イリーガルという目に見える存在にすることで、感情を繊細に可視化したという部分が画期的だったと思います。

電脳ペットのデンスケとヤサコの妹の京子との関係や、死んだおじいちゃんの優しさなど、心温まる細かいエピソードもちょいちょい挟まれていて、感動作品としても楽しむことができます。願わくば、もう少し大人向けに作ってくれたらと・・・。それだけが残念でなりません。

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ぺんぎん

ぺんぎん の紹介

物語をこよなく愛する一般人。 物語ならば、映画、小説、アニメ、ゲーム、マンガなどなど、形態は問いません。ジャンルや作者に縛られない濫読派。
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