最強のふたり

映画「最強のふたり」 エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ

あらすじ(ネタバレなし)

パリに住む大富豪のフィリップは、脊髄損傷による後遺症のため、首から下が麻痺している。体を動かすこともできず、感覚すらもないフィリップは介護人を必要としている。彼は、そこに応募してきたドリスという青年を雇うことにする。ドリスはそもそも職に就く気などなく、失業保険を貰うために求職のフリをしにきただけだった。大富豪のフィリップとスラム出身のドリス。畑の違うふたりは、次第に信頼を結んでいく。

感想(ネタバレなし)

深刻な社会的問題点をテーマにしながら、ユーモアをふんだんに取り入れたテンポの良さで、映画全体をコミカルで爽やかに彩っています。眉を寄せながらウンウンと考えるのではなく、笑ったり泣いたりしながら、自然といろいろな方向に考えを持っていけるような素敵な映画でした。

冒頭部分で、フィリップとドリスのふたりで警察を騙すようなことをするのですが、正直「これはやり過ぎだな。」と嫌悪感を感じました。スピード違反のために警察に追いかけられている場面で、パトカーを巻けるかどうか賭けをしたり、警察を騙せるかどうか賭けをしたり、「いやいや、それはさすがにマズいでしょ。」と思いました。
しかし、このやり過ぎ感がふたりをつないでいたのかなとも思います。

フィリップはもの凄い金持ち(しかも偏屈)なので、基本的に人を信用していないようなところがありました。ですが、フィリップを「障害者」としてではなく、「ひとりの人間」として見ているドリスにだけは、心をつなぐチャンスがあったのだと思います。フィリップが今まで経験しなかったハチャメチャを、ドリスはたくさん運んできます。フィリップの世界からは見えないものが、ドリスには見えていたようです。

一方ドリスの方は、生まれた時から貧困の中で暮らし、ろくな教育も受けてこなかったために、いろいろなことに諦めて、そこらをフラフラしていました。フィリップと初めて会った時も文化的な会話などできず、周りの人からは「頭がおかしい」としか思われなかったでしょう。しかし、ドリス本人は気づいていないが、彼には「どんな人とも同じように接することができる」才能がありました。

人には人それぞれにいろいろな才能があったり、逆に短所があったりします。しかし、社会という枠組みの中で、環境や貧困の中で、埋もれたままになっている才能もたくさんあるでしょう。その才能は、一つの方向から眺めてもなかなか見つけることはできないでしょう。いろいろな視点から見る必要があると思います。

「最強のふたり」は、畑違いのふたりが一緒になってメチャクチャをするっていう、いわゆるデコボココンビモノなのですが、このデコボコあってこその才能の発見です。お互いがお互いに無いものを補い合い、発見し合い、そしてお互いを認め合っていく。でもシリアスな話にはせず、笑いながらそれを感じていける。中盤以降の爽やかさは本当に気持ちが良かったです。

感想(ネタバレあり)

ここから先は、物語の核心に触れる記述があります。まだこの映画を見ていない方はご注意ください。


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全体的に、文化人側にいたフィリップの周りの人たちが、ドリスに巻き込まれていった印象が強かったです。
フィリップの周りにいた多くの人たちが、貧困層の人たちを「ガサツで暴力的」または「イカれている」と、はじめは評価していました。ドリスが周りに影響を受けて大きく成長したのもありますが、フィリップの周りの人たちはドリスと共に働いていく中で、ドリスの良い所を発見していき(もちろん悪いところもたくさんあるけど)、次第にドリスへの評価が変わっていきます。

先入観や一般論で人を評価していた人たちが、「個人」を見つめることで考えを変えていきました。これはとても大切なメッセージだと思います。

逆に、フィリップの介護人の職を求めて面接に来ていたドリス以外の人たちを、障害者を「障害者」という枠組みの中に捉えていて、「個人」とは捉えられていなかったように感じました。映画としてはちょっと悪意を感じましたが。さすがに、介護に携わる人たちみんながみんなそうだとは思えませんし、しっかりと信念を持って仕事をしている方々はたくさんいらっしゃると思いますので。

しかし、映画の中では、まともっぽい求職者たちよりも、ドリスの方がこの仕事には向いているように見えました。ただ、貧困の中に暮らし、まともな教育を受けていないからというだけで不利になってしまうことに、不条理を感じます。とはいえ、鞄の中に警棒やナイフを持ち歩いてる人間を「じゃあ雇おうか!」って思うのも、なかなかイカれた判断だとは思えますが!まああれです、もっと吹っ切れないとちゃんとした判断は難しいようです。

しかし、ドリスもフィリップとの関わりの中で成長していきます。家の前に駐車する車に、はじめは車から引きずり下ろして暴力的に解決していたのですが、後にはちゃんと紳士的に注意することができるようになっていました。最初の暴力的なのも痛快ではありましたが。
ダリやゴヤの話をできるようになっただけでなく、それをネタに笑いを取れるようになったのも面白かったです。フィリップのおかげで、ユーモアの幅が広がったように感じました。これならば、印象も良く、才能を元に職を得ることも、仕事をすることもできるでしょう。環境の大事さを感じました。

フィリップとドリスのふたりの関係も良かったのですが、ドリスと他の従業員たちの関係も楽しかったです。
はじめは「うわー、なんだこいつ大丈夫か?」って思ってた人たちが、だんだんと一緒に笑っていけるようになっていく過程は、爽やかでしたし笑いを誘いました。特に、フィリップの助手のイヴォンヌというおばちゃんが大好きです。
ドリスの下品なギャグにドン引きしたり、暴力的な行動にドン引きしたり、とにかくドン引きしまくってたおばちゃんが、だんだんとドリスとバカ話をするようになっていくんですが、この感じがとても自然に描かれていて良かったです。それでいて、仕事に関してもお互いを信頼している感じがして、なんというか、ドリスのプロフェッショナルとしての部分を一番引き出せていたキャラクターだったと思います。ドリスが介護人の仕事を辞める時の、ドリスの「キスする?」に対する反応がやたらかわいかったですし。コミカルな感じで描かれていましたが、ちゃんと信頼関係も描かれているように感じました。

さんざん言い寄っていたのに一向になびかなかったフィリップの秘書のマガリーが、実はレズだったとか、イヴォンヌと庭師のアルベールがデートに行くことになったりと、笑いの要素をふんだんに盛り込まれているので、眉根を寄せずにリラックスして見ることができました。

最後の最後、なんだかんだ言いながらも、自分が障害者であることに強いコンプレックスを感じて、恋愛に関して一歩も前に踏み出せなかったフィリップを見て、ドリスが一計を案じます。
ランチの場面で、ドリスはフィリップを置いていなくなります。「デートの相手が来る。」と言い残して。
そこに、フィリップが長らく文通をして想いを寄せていた女性がやってきます。そしてドリスとフィリップは別れて別々の道を歩んでいきます。
なんという爽やかエンド!喜びと悲しみと笑いと絆とお互いを想う気持ちと愛と友情とこれからの未来といろいろな感情がドッと押し寄せてくるが、だからといって激しくはなく、ただただ爽やかな気持ちになる終わり方でした。

障害者や教育や貧困や、フランスの移民問題にも踏み込んでいく深刻なテーマながら、笑い、泣き、そしてもう一度笑えるような、そんな素敵な映画でした。

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ぺんぎん

ぺんぎん の紹介

物語をこよなく愛するフリーライター。 物語ならば、映画、小説、アニメ、ゲーム、マンガなどなど、形態は問いません。ジャンルや作者に縛られない乱読派。
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