女が眠る時

映画「女が眠る時」 ウェイン・ワン

あらすじ(ネタバレなし)

1周間のバカンスに来ていた作家の清水健二。彼はデビュー作のヒット以来良い作品が書けなかった。妻との関係も良好ではなく、無気力な日々を送っていた。バカンスの初日、彼らは妙な客に目を留める。若い女の背中にオイルを塗る初老の男。健二はこの不思議な組合せのカップルに夢中になっていき、ふたりの泊まっている部屋を覗くようになる。健二はやがて初老の男・佐原と言葉を交わすようになり、次第に彼の狂気にのめり込んでいく。

感想(ネタバレなし)

映画を見て、こんなに置いてけぼりを食ったのは久しぶりです。

いや、完全に置いて行かれました!見終わった後にあれやこれやと頭の中をこねくり回しましたが、パックリ分かりません!こんなに置いてけぼりを食ったのは「マルホランド・ドライブ」以来です!
マルホランド・ドライブはとても難解な映画でしたが、それでも鍵となる鍵があったじゃないですか(文字通り「鍵」)。「この鍵の謎を追っていけば、次第に真相が見えてくるだろう。」みたいな取っ掛かりがあったんです。でもですね!女が眠る時は、何を取っ掛かりにして考えていけばよいのかが分からないのです。

実際に起こっていることと、作家が書いている物語(または作家が頭の中で構想している物語)がパラパラと入り混じっていて、どこまでが現実なのか分かりません。現実と作家の物語の比率するわかりません。極端に言うと、映画の99%は作家が書いている物語の内容かもしれません。
そんな何も見えない中で、パズルの最初のピースを探さなければならないのです。正直に言って、正解が用意されているかどうかすらも怪しいです。もしかしたら「解釈は視聴者に丸投げ」なんてこともありえます。

で、ストーリーが全然わからなかったからつまらなかったのかというと、まったくそんなことはありません。私がこういうタイプの映画が好きっていうこともあるのですが、雰囲気だけでも十分に楽しめました。映画全体を覆うピリッとした緊張感と、綺麗な音楽、それに寂れたリゾート地を背景にした映像が奇妙なフュージョンをしていて美しかったです。

とは言えやっぱり一番の見所はいろいろな解釈のしようのある難解なストーリーで、一緒に見に行った人と、「あれはこうなんじゃない?」とか、「きっとこういうことだよ!」って論議するところまでが「女が眠る時」の正しい楽しみ方じゃないかなと思いました。

感想(ネタバレあり)

ここから先は、物語の核心に触れる記述があります。まだこの映画を見ていない方はご注意ください。


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ストーリーをほとんど理解できていない私が、ネタバレありの感想を書いてしまいます!
初老の男・佐原と、一緒にいた若い女・美樹が言い合ったあとに、美樹が健二の乗っている車に乗り込んでくるシーン。美樹は車を飛び出して断崖の方へ向かいますが、健二に抱きしめられてオイオイと泣きます。ですが次のシーンで車に乗っているふたりの服は濡れていないので、美樹が車を飛び出したシーンから先は現実のことではなかったことが分かります。こういった「これは明らかに現実のことじゃないな!」っていうシーンは確かにあったのですが、このシーンひとつを取っても、「じゃあどこからが現実じゃなかったのか。」と問われると、「うん、分からない」と答えるしかありません。美樹が車に乗り込んできた所からか。美樹が佐原と言い合っている所からか。それとも健二が佐原の部屋に忍び込んだ所からか。

これは何度も映画を見て、相当検証していかないと分からないと思うのですが(または、そもそもちゃんとした答えが用意されていないかもしれない)、この「どこまでが現実で、どこからが健二の考えいる物語の内容なのか」を見極めるのは非常に重要かと思います。健二が考えている物語ならば、健二の心情が色濃く表れているはずだからです。願望だったり、健二の妻の綾に言わせれば「自己嫌悪」だったり。

では、手始めにどこから考えていけば良いか。最初に書いた通り、私には分かりません!!
帽子でしょうか?冒頭で健二が佐原と美樹のふたりを観察するために使った帽子です。綾はその帽子を「失くした」と言い、その帽子は佐原の部屋に落ちていて、物語の最後では佐原が健二に向かって「帽子は見つかったか?」と問います。そういえば、帽子が「いつから無いの分からない。」と言う綾に対して、健二が「それならすぐに見つかるよ。」と答えた時の綾の態度はおかしかったですね。何かのヒントかもしれません。

帽子も取っ掛かり候補の筆頭なのですが、私が一番「ここかな」と思ったのは、健二の謎発言です。
綾は自分の担当の作家がおじいちゃんだと言っていたのですが、健二はそれが嘘であることを発見します。そして部屋から、綾と佐原が一緒にいるのを見てしまいます。健二は綾に対して「佐原と何を話していたのか。」と問い詰めますが、綾は詳しくは答えません。その言い合いの中で放った健二のセリフです。

「ファザコンのお嬢様、生まれて初めて欲しいものが手に入らない。」

すみません、セリフは正確じゃないかもしれません。このセリフを聞いた時、ずっと年上の男と一緒にいる美樹のことを言ったのだと思いました。しかしそれまで言い争っていた綾は、このセリフを聞くとガラッと様子が変わって泣き崩れます。そして健二と綾はその後、数日前は失敗した夜の営みを激しく繰り広げます。
綾がファザコンなんていう設定、映画のどこにも言及されていません。あえて言うならば、担当の作家がおじいちゃんで、一日中そのおじいちゃんにつきっきりだということです。ですが、担当の作家は実はおじいちゃんではなかったわけですし。セリフを聞いた後の綾の狼狽ぶりを見れば、綾のことを言ったセリフだと思います。それに、ここで言う「欲しいもの」とは一体何だったのか。

これはきっとアレです。1回目で謎や気になる点を洗い出して、2回目でひとつひとつ検証していき、3回目以降で裏付けをしていけというパターンです。そう、まるでマルホランド・ドライブですね!この感想で何度も出てきていますが、私はマルホランド・ドライブ大好きです!

ビートたけしも西島秀俊も、基本的に何の役を演じていても同じようにしか見えないのですが、「女が眠る時」ではとてもマッチして、良いキャスティングだと思いました。ビートたけしは寝ている美樹を何年間も毎日毎日ビデオで撮り続けているという、かなりエキセントリックな役柄ですが、狂気を内に秘めているような雰囲気が非常に良かったです。ビデオは上書きしていると言いながらも、「良いのは取ってある。」と言って健二にそのムービーを見せている時のあの顔は、本当にヤバかったです。「あ、これ本当に危ない人だ!」って分かる、良い演技でした。カミソリを美樹に差し出して、「オレを殺したいんだろ?やってみろ。」っていうシーンや、寝ている健二の喉元にカミソリを当てるシーンとか、ヤバい人の演技は素晴らしかったです。

西島秀俊は、人の部屋をベランダから覗いちゃうような(しかもそれに夢中になっちゃうような)ちょっと危ない状態から、人の部屋に入り込んでコッソリビデオを見ようとしたり、その途中で美樹が部屋に帰ってきてしまいベッドの下に隠れちゃったり、美樹がシャワー浴びてるうちに逃げればよいものを、じっくりと美樹を観察しちゃったりと、だんだんおかしくなっていく感じがなかなかシュールで楽しかったです。

そして何よりも今回謎だったのは、リリー・フランキーです。ちょっとおかしくなっている健二が佐原と美樹を尾行し、そこで行き着いたお店をやっていたのがリリー・フランキーです(役名忘れました!)。この人もちょっと危ない感じの役で、淡々と理論的に話すんだけれども、その中に非常に攻撃的なものが含まれていて怖かったです。「意味の分からない質問をするのならば、理由を説明するのが筋だろ?」ということを分からせるために、無表情で理路整然と話す感じはかなりの怖さがありました。

このリリー・フランキーが話していた内容が結構面白くて、ストッキングとタイツの違いの話とか、男が好きなデニールはいくつくらいかという話とか、ライオンの群れのライオンキングの話とか、非常に興味深かったです。しかもどれも微エロな話。
デニールって、ストッキング(タイツ?)の色の濃さで、数字が大きいほど黒いっていうアレです。数字は忘れちゃったんですけど(40から60だったっけか)、普通にしていると黒いストッキングなんだけど、足を曲げると部分的に透けて肉感が出るくらいの色の濃さが一番男に好かれるんだとか。っていう話をしているのを聞きながら、思わず「わかる!」ってうなずいてました。

ライオンの方のお話は、ライオンの群れの中には圧倒的にモテる雄っていうのがいて、そのオスが群れの大体の雌と交尾してしまうとかっていう話です。(たぶん)謎解きとは全然関係ないのですが、話に聞き入ってしまいました。非常に面白い役柄のリリー・フランキーでした。

さて、全然謎解きをしていないうえに関係ない話までしましたが、ここいらでラストの話をしようではありませんか。

ラストは、健二の書いた新作小説がヒットし、綾は妊娠しています。お祝いをしていたレストランで、健二は佐原を見つけ追いかけます。健二は佐原に声を書けますが、佐原は不敵な笑みを浮かべた後、歩き去ります。ここのビートたけしの演技良かったです。

つまり、ずっと書けなかった健二がまた小説を書けたのです。間違いなく佐原と美樹からインスピレーションを得て書いた小説です。そして、冷えきっていた妻との間に子供ができました。これはあのセリフを言った夜にできた子供でしょうか。それともその後で再び火のついた結果できた子供でしょうか。どちらにしてもあのファザコン発言がきっかけになって、二人の関係が深まったのは確かです。

ただし、このラストのシーンが「現実である」という保証もどこにもないのです。つまり分からん!
実は私の中では、「綾は実は存在しないのではないか」説がずっと有力でした。最後、綾が妊娠しているシーンでその説は消えてしまったのですが、最後のシーンが現実でないとすれば、まだその説は首の皮一枚つながります。
っていう感じで、あの説もこの説も捨てきれずにうんうんうんうん悩みながら、3回くらい見てもあれやこれやと楽しめそうな映画です。辛抱強さ必要ですが・・・。見た人集めてわいのわいの議論したら楽しそうです。

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ぺんぎん

ぺんぎん の紹介

物語をこよなく愛する一般人。 物語ならば、映画、小説、アニメ、ゲーム、マンガなどなど、形態は問いません。ジャンルや作者に縛られない濫読派。
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映画「女が眠る時」 ウェイン・ワン への2件のフィードバック

  1. 匿名 のコメント:

    もやもやした気持ちがここへ来て幾分解消されました。素晴らしく楽しい回想が自分なりに出来ました。あなたみたいな人がこのようなウェブ?ブログを書いていた事に僕は救いを感じました。ありがとう、これからも、このような ああだこうだ言い合いたい気持ちを読むだけで解消出来る術を続けてくれたら、皆が有り難みを感じると思います。いつかあなたの皆で談義出来たらなんて空想を感じながら・・ありがとう御座いました

  2. ちゃん のコメント:

    あなたのではなく、あなたと・・の誤りです。お疲れ様でした!

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