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小説「ノエル―a story of stories―」 道尾秀介




あらすじ(ネタバレなし)

とある絵本作家を軸に、物語を紡ぐ人たちに関するオムニバス。イジメや暴力から心を守るために、一緒に絵本を書こうと決めた少年と少女。脚が悪いことで学校ではからかわれ、家では妹の誕生と祖母の病気に不安に陥る女の子。生きることの意味を見失った元教師。物語を書き、物語に救われていく人たちの物語。

感想(ネタバレなし)

完全にタイトルだけ見て買いました。「天体のメソッド」でも「オアシス」でもなく、「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」を思い起こしたから。タイトルを見て手に取ってから作者を見て、「ああ、道尾秀介さんかぁ。」と思って、買うかどうか悩みました。道尾秀介は、「向日葵の咲かない夏」を読んで、そのあまりに頭のおかしい結末に敬遠していたのですが、タイトルに押し切られて買いました。なお、この場合の「頭のおかしい」は褒め言葉です。何年経ってもあの結末は忘れられません。

結果、買ってみて本当に良かったです。ミステリーとしては陳腐なトリックがあったりするんですが、「ノエル」ではそのトリックはあまり重要ではないので許せます。そんなことよりも、物語の構成の緻密さに驚きました。「伏線を張る」とか、そういうレベルの伏線ではありません。これはハーモニーです。登場人物たちの作り出すハーモニーです。最後まで読み終わったとき、そのハーモニーの繊細さと美しさに心を打たれました。

感想(ネタバレあり)

ここから先は、物語の核心に触れる記述があります。まだこの小説を読んでいない方はご注意ください。


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あらすじにはオムニバスと書きましたが、実際は一本の物語です。オムニバスというよりは、三部構成といった感じです。
第一部で、「同じ時間の出来事と見せかけて、実は一年ずれてました」トリックや、「名前が同じだったから同一人物だと思っただろ?」トリックが使われていて、正直ウンザリしました。イニシエーション・ラブの悲劇を思い浮かべました。しかしそれも、これがミステリー小説だと思い込んで読んでいる間でした。この陳腐なトリックが物語の核心ではないと思えてからは、落ち着いて読めました。むしろトリックとしてすごいと思ったのは、「道尾秀介はミステリー作家」っていう読者の先入観をついて、見事に裏切ったところです。今にも恐ろしい事が起こりそうなストーリー展開にゾッとさせておきながら、開けてみたら超ほのぼの、奇跡の救われストーリーじゃないですか。本当にビックリしました。

ビックリといえば、ストーリーの緻密さです。小説の中に登場する卯月圭介という絵本作家を軸にはしていますが、全く異なる3つのストーリーがあると思っていたのに、最後のエピローグではみんな揃って大団円じゃないですか。第一部より前に出てきた絵本で、カブトムシとぶつかりそうになったインコが、物語の最後の最後の方で繋がってきたときは「おお!」ってなりました。
絵本といえば、「ノエル」の中に登場する絵本もまた魅力的でした。第二部の「暗がりの子供」は、特に気に入ってるエピソードなのですが、その魅力の半分くらいは絵本「空飛ぶ宝物」にあるとおもいます。もちろん主人公の莉子の物語もワクワクしましたが、絵本の中の真子の物語にもワクワクしながら読めました。本編と、本編の中に登場する物語と、ダブルでドキドキ・ワクワクしてしまいました。

みんながみんな、何かの糸で少しずつ繋がっていて、小さな小さな何かをみんなに受け渡している。それが目に見えないほど小さくても、気が付かないほど小さくても、確かに受け取っていて、確かに与えている。その巡り合いが人を動かしているような、そんな優しい気持ちになりました。

関係ありませんが、「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」をもう一度見たくなってきました。

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ぺんぎん

ぺんぎん の紹介

物語をこよなく愛する一般人。 物語ならば、映画、小説、アニメ、ゲーム、マンガなどなど、形態は問いません。ジャンルや作者に縛られない濫読派。
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