公開処刑人 森のくまさん

小説「公開処刑人 森のくまさん」 堀内公太郎




あらすじ(ネタバレなし)

ネット上に実名入りで悪事を晒された人たちを、ネット上に犯行声明を出す「森のくまさん」と名乗る人物が殺していく。
被害者たちはレイプ常習犯やイジメを助長する教師などで、法では裁かれないクズへの制裁として、ネット上では森のくまさんは支持されていく。
「このミステリーがすごい!」大賞の隠し玉(編集部推薦)として出版。

感想(ネタバレなし)

完全にタイトル買いでした。「公開処刑人 森のくまさん」。シュール過ぎます。「地獄のヒーロー」とか「必殺処刑コップ」とか、そういう良い意味でのショボさがあります。
しかし中身は完全にシリアルキラーもののサスペンスでした。タイトルと同様、ややB級感はありましたが、普通の犯罪ものと見て大丈夫です。

まず冒頭で一人殺されるのですが、森のくまさんの陽気な歌を歌いながらの殺人シーンで、作品全体の不気味さが演出されます。
謎解きを楽しむには全く物足りませんし、善悪に関するテーマになると思いきや全く掘り下げられず、全体的に消化不良が漂う作品なのですが、(B級感も含めて)この不気味さだけは全編通して良かったと思います。
場違いの明るさや陽気さは、狂気を演出するにはうってつけです。

ネットを使っての劇場型連続殺人というジャンルになるのだと思いますが、捜査自体はあまり焦点になっておらず、どちらかと言うと周辺の人物の人間関係を描いています。
ああ、それとネットという世界の特殊性も描かれていました。いかにも2ちゃんねるという感じの掲示板も出てきて、ネット民には馴染みが深い感じになっています。

全体的には消化不良です。大して意味のない叙述トリックが多くて、ちょっとウザかったかなとも思います。
ですが、なんだかんだで中盤以降はハラハラしながら読んでいました。
特にラストの方は、いろいろなキャラの思惑が交差して、クライマックス感凄かったです。

感想(ネタバレあり)

ここから先は、物語の核心に触れる記述があります。まだこの小説を読んでいない方はご注意ください。


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犯人はわりと序盤の方で、「ああ、こいつだろうな。」と思ってしまいました。犯人の九門正則と、その彼女の菜々美、菜々美の友達のひよりの3人でテレビを見ているシーンですね。
正則が犯人の森のくまさんを擁護していて、正義感が強く、警察官僚を目指しているということが分かってきて、「ああ、こいつか。」って。そのあと、何度も菜々美の兄の若林健介へミスリードしようとする記述があったので、「ああ、もしかしたらこっちか?」と思ったりもしましたが、特にどんでん返しもなく、普通に正則でしたね。
この小説は謎解きがメインではありませんし、私はあまり謎解きを楽しむタイプでもないので良いのですが、謎解きがメインでないのならば、健介へのミスリードとか邪魔なだけでした。「あ、そういうのいらないんで、早くテーマに行ってください。」という感じでした。

さて、そのテーマですが、絶対に善悪の話になると思ったんです、私は。
殺されて当然と思われるような人たちが殺されていましたし、ネット上でもその殺しを支持し、正当化すらしようとする雰囲気が漂っていましたし。「ダーティー・ハリー」とか「罪と罰」とか、そういうテーマになると思っていたんです。
しかし蓋を開けてみたら、犯人の正則はただのキチガイじゃないですか。ずっと秀才キャラで通ってきたのに、なんですか最後の体たらくは。
有名大卒を逸話り、夢を偽り、それでいて自分が認められないのは社会的地位のせいにする。責められるべきは自分の努力不足であるのにも関わらず。これを元にして、正則の動機は「社会の善悪の是正」ではなく、「自己満乙」というが露呈するのです。

客から金を搾り取るだけ搾り取って、金がなくなったらポイするキャバ嬢が被害者となったときに、「これは偏りすぎじゃね?」と思ったのですが、それは正則の善悪の基準が偏っていたから、仕方のない事だったのかもしれません。逆に、明日香(女子高生)をイジメていた美加子に対しては、「おまえみたいなザコ」呼ばわりしてましたし。いや、そっちの方が遥かに処されるべき対象なのではと思いました。
キャバ嬢はそんなに悪く無いだろ。搾り取られる男にも責任はあるだろう。少なくとも殺す対象になるほどじゃないだろう。何か個人的な思いがあったとしか思えない。

明日香といえば、明日香とその友達の琴乃はヤバかったですね!ずっと琴乃がちょっとヤバいやつい描かれていたのですが、本物は明日香の方でした。
あれはイカンね。
物語の最後にちょっとだけ語られていましたが、正則は初めからあっち側の人間でした。確かに法による善悪は、人としての善悪とは異なる。が、それでも多くの人間は、それを知った上で社会的な法律に従って生きている。どれだけ人間的に許されないことでも、それを止めるために法を犯すことはしない。しかし、中には一線を越えて殺人に及ぶ人間もいる。健介は、正則がその一線をどう越えたのかを知りたかったが、残念ながら正則は一線を越えたのではなく、初めから向こう側にいたのだということでした。

そういう意味では、一線を越えたのは明日香でしょう。その瞬間も鮮やかに描かれていました。人が狂気に目覚める瞬間。
この小説はミステリーとしてはいろいろと物足りませんが、こういったサイコスリラー的な狂気としては良かったです。特に明日香が目覚めたシーンは、強く印象に残っています。
あの華奢で大人しくて儚げな(ただし、美加子の話によるとあざといらしい)明日香が、金属バットを何度も振り下ろすシーンは正に狂気でした。

最後のシーンは何なんでしょう。琴乃の病室に明日香が訪れ、「ずっと琴乃が気持ち悪かった。」とか、「もう二度と会うことはない。」とぶちまけたり、逆恨みした琴乃が、「なんとしてもまた会いに行く。あなたを殺すために。」と宣戦布告したり、蛇足感ハンパないうえに、B級感溢れ過ぎです。
スッキリ終わった感を出さずに、不気味さを残したまま終わらせようとしたのでしょうが、もう「続編書く気満々だから布石だけ打っといたよ!」としか思えませんでした。それほど期待はしていないのですが、明日香ファンとしては続編が出たら読みたいところ。
え?続編出てるんですか??
え?明日香じゃない???なんで?

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ぺんぎん

ぺんぎん の紹介

物語をこよなく愛するフリーライター。 物語ならば、映画、小説、アニメ、ゲーム、マンガなどなど、形態は問いません。ジャンルや作者に縛られない乱読派。
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