雲のむこう、約束の場所

映画「雲のむこう、約束の場所」 新海誠

あらすじ(ネタバレなし)

戦後、北海道はユニオンという国に占領され、蝦夷と呼ばれていた。青森に住む中学生の藤沢浩紀(ふじさわひろき)と白川拓也(しらかわたくや)は、蝦夷の地に空高くそびえる塔・ユニオンの塔に憧れ、密かに飛行機を作り、塔へのフライトを計画していた。そこにふたりの同級生の沢渡佐由理(さわたりさゆり)加わり、ふたりは佐由理を塔へと連れていくことを約束するが、佐由理は突然ふたりの前から姿を消してしまう。確かに特別な時間だった、3人で過ごした夏。その後、別々の道を歩んだ3人は、再びユニオンの塔を中心に交わっていく。

感想(ネタバレなし)

透明な恋心。純粋な約束。あの頃から続く想い。

心にスッと染みこんでくるような淡い感情が、美しい映像と共に表現されていました。
「秒速5センチメートル」や「言の葉の庭」を見て以来、すっかり新海誠ファンなのですが、相変わらずの新海誠ワールドです。私が見た順では「相変わらず」ですが、作品としては「雲のむこう、約束の場所」の方が「秒速5センチメートル」や「言の葉の庭」より前ですので、「相変わらず」というよりは「以前もやっぱり」の方が適切な表現かもしれません。

映像的には、吸い込まれそうなほど高い青空の表現や、その空を反射する水面の美しさ、画面全体を煌めかせる光の映し出し方が非常に特徴的で、一度見たら忘れられない映像です。「雲のむこう、約束の場所」でもそれは顕著で、更に遠くにそびえる白い塔が、あの吸い込まれそうな空の青に映えて美しかったです。

ストーリーの方も、爆発的な感情を爆発的に表すのではなく、静かな言葉や行動の中に強い感情を表しながら、穏やかに進んでいきます。
前半は中学生のかわいい恋心を描いた青春モノですが、中盤はユニオンの塔の謎を巡る研究や軍事の話にガラッと変わり、終盤はその2つを織り交ぜながらも、藤沢浩紀、白川拓也、沢渡佐由理の青春ストーリーになっていました。

ユニオンの塔に関する謎や研究については、物語の中でしっかりと説明されていくのですが、軍事や政治に関してはあまり説明がありません。蝦夷(北海道)を治める「ユニオン」という国については、説明はほぼ0に等しく、ユニオンの思惑が全く分かりません。軍事、政治、ユニオンは、物語の流れの大きなポイントとなる要素なので、この辺りは不満が残りました。
が、逆に「これは3人の物語なんだ」という監督の強い意志が感じられるところでもありました。

そう、これは浩紀たち3人の物語です。彼らがユニオンの塔という1点に集まり、そしてすれ違い、もう一度絆を確認していく物語です。
その透明で純粋な絆が、透き通るような映像とストーリー展開で美しく表現されていました。心に染みわたっていくような、穏やかな感動をもらいました。

感想(ネタバレあり)

ここから先は、物語の核心に触れる記述があります。まだこの映画を見ていない方はご注意ください。


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この宇宙が見る夢とは一体何だったのだろうか。
「雲のむこう、約束の場所」の中の世界には、「平行世界」というものが存在しています。笠原真希(かさはらまき)の言葉を借りれば、それは言わば「宇宙が見ている夢」で、人々は(他の生物も)無意識のうちにその夢を感じ取っているそうです。ユニオンの塔は、その平行世界を観測するものだと考えられています。空からの観測によると、ユニオンの塔の周りには平行世界が目で見える状態になっています。しかしそれは塔の周囲2kmの範囲で、なぜその範囲で留まっているのか謎でした。
しかし、物語が進むに連れて、塔が観測する平行世界が、なんらかの要因で沢渡佐由理の脳内に流れ込んでいるため、外の世界には流れ出ていないのではないかということが分かっていきます。

浩紀たちが飛行機を組み立ていた中学3年生の夏、佐由理が突然姿を消したのは、原因不明の眠り病(ナルコレプシー)のためでした。目が覚めたら東京の病院で、浩紀に宛てた手紙は届かないままになっていたようです。彼女はそれから目が覚めなくなり、ずっと「宇宙が見る夢」の中にひとりで閉じ込められてしまっていました。
佐由理が目を覚ませば、平行世界は佐由理の夢の中に流れこむことができなくなり、ユニオンの塔の周囲に流れ出て、世界を飲み込んでいくことになります。

では、なぜ佐由理だったのか。それは、ユニオンの塔の設計者が、佐由理の祖父だったからです。
が、これ以降の説明は全くありませんでした。そもそもなぜユニオンの塔が建てられたのかも、ユニオンという国がユニオンの塔をどのように利用するつもりだったのかも、全く説明がありません。世界が入れ替わってしまうような危険なものを、なぜユニオンは作って、なぜ解体しなかったのか。平行世界が広がれば、真っ先に被害を受けるのはユニオンの国土であるのにも関わらずです。

戦闘に関しても無理があったように思われます。ユニオンへの宣戦布告に紛れて、浩紀たちが作った飛行機・ヴェラシーラを塔へと飛ばすのですが、いくら低空飛行をしたとしても、戦闘機が飛び交うあの戦域を抜けられるとは思えません。増して、明らかな攻撃目標であるユニオンの塔の周りがあんなにがら空きだなんて・・・。

というふうに、ファンタジーとしてもストーリーとしても穴はたくさんあるのですが、見所はそのどちらでもありません。もう一度書きますが、これは浩紀たち3人の物語なのです。細部にもう少しこだわって作ってくれたらいいなとは思いますが、大筋の部分はしっかりと作り込まれていました。

確かに特別な時間だと思えた中学3年生の夏。佐由理が突然消えたあと、浩紀はユニオンの塔から逃げ出して東京の高校へ通い、拓也はユニオンの塔に執着して研究員として研究を始めます。どちらにとっても佐由理の消失は大きく心にのしかかり、それぞれの方法でそれに対処しようとしました。それだけ、佐由理がふたりにとって大切な存在になっていたといことがうかがえます。
新海誠の作品は、こういった気持ちの変化を描くのが非常に巧みで、全然違う道を歩んだふたりなのに、どちらのキャラクターにも共感できました。しっかりとキャラクターを掴みながらストーリーを練っているように感じます。

佐由理の失踪の理由を知った浩紀と拓也は、再び同じ道に戻ってきます。
浩紀が見た夢と宇宙が見る夢がリンクして、浩紀は夢の中に閉じ込められていた佐由理と会います。3年ぶりの再会は夢の中で。ふたりは、お互いがお互いをずっと探していたことを知り、浩紀は心を決めます。佐由理をユニオンの塔へと連れて行く。あの夏に交わした約束を果たす。
拓也は、一度逃げ出した浩紀を「今更のこのこやって来て、何かと思えば夢の話か。」となじって殴り合いをしちゃう(鉄砲まで撃っちゃう!)という、なんともクサい青春シーンが挟まったりはするのですが、拓也と浩紀は再びユニオンの塔へと気持ちを向けていきます。佐由理を塔へ連れて行けば、佐由理はきっと目を覚ますと信じて。

でも、佐由理が目覚めたらこの世界は平行世界に書き換わってしまいます。だから拓也は浩紀に言います。

「佐由理を救うか、世界を救うのかだ。」

使い古されたテーマではあるのですが、非常にグッとくるセリフです。この問に対して、浩紀は迷わなかったと思います。このあと浩紀は、ひとりでもやり遂げようと走り回ったからです。
美しい話になるかなと思ったのですが、結果的にはどちらも救ってしまうのでちょっと拍子抜けな感じはしました。
佐由理を塔へと連れて行き、佐由理が目を覚ましたらその場から離脱。離脱と同時にミサイルを撃って塔を爆破。塔が爆破されると平行世界の広がりは止まります。こんな2秒で思いつくような作戦で解決する話なのに、「佐由理を救うか、世界を救うのかだ。」とか言っちゃった拓也恥ずかしい///

まあそれは置いといて、佐由理が夢から帰ってくるところも素敵でした。佐由理は夢の中で感じていた浩紀への想いを、夢が覚めたら消えてしまうことが分かっていました。それは大切な気持ちだから忘れたくない。失いたくない。でもやっぱりそれを捨てなければ、再び浩紀と会うこともできない。だから目が覚めてから一瞬だけでも覚えていてほしいと願います。が、あっけなく夢が覚めると同時に忘れてしまいます。「消えちゃった。」と泣く佐由理に浩紀は言います。

「大丈夫だよ。目が覚めたんだから。これから全部、また・・・。」

細かい部分でツッコミどころはいくつかあるのですが、3人の絆や、浩紀と佐由理のラブストーリーという大きな部分では、大きく心を揺さぶられます。特にこの最後のシーンでは、映像の緩急と美しい音楽による演出が素晴らしく、しばらく映像の中に心が取り込まれたまま放心状態でした。3人の物語でありながら、最後の最後は浩紀と佐由理のお話になってしまうという、拓也にとってはちょっとかわいそうなストーリー展開ではあるのですが(私は拓也大好きですよ!!)、ドンマイ拓也!素敵な役柄でしたよ!

拓也のことを想う真希ちゃんや、浩紀や拓也がバイトをしていた製作所の社長の岡部(実はテログループのリーダー)などの、メインではないキャラクターもすごく丁寧に描かれていて良かったです。どのキャラクターも魅力に溢れていました。どのキャラクターも、きっと製作者に愛されているんだろうなと思いました。

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ぺんぎん

ぺんぎん の紹介

物語をこよなく愛する一般人。 物語ならば、映画、小説、アニメ、ゲーム、マンガなどなど、形態は問いません。ジャンルや作者に縛られない濫読派。
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