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小説「永日小品」 夏目漱石




あらすじ(ネタバレなし)

日常の風景や、夏目漱石のロンドン留学時代から題材をとった短い作品の寄せ集め。短編にも満たない短いお話の詰め合わせ。

感想(ネタバレなし)

基本的に日常系。何でもないような出来事がポツリポツリと描かれています。

正月にこんなことがあって楽しかったとか、飼っていた猫が死んでしまって墓を作ったとか、ロンドンやスコットランドでこんな人と出会ったとか、本当に日常風景をパッと切り取ったような作品が多かったです。日常風景にも関わらず、それぞれの話の終わり方が絶妙で、心に留まるものがあります。

夏目漱石の作品もそうなのですが、私は「しっかりと区切りは付いているのだけれども、キッチリは終わらない」タイプのお話が好きです。この「永日小品」はそういった終わり方のオンパレードで、感心しっぱなしでした。お話の終わりが近づくに連れてワクワクしてしまいました。

また、日常系のお話の他にも、ちょっと不思議で怖いお話も、少しですが混ざっていました。「ドカーン!」っていう感じの怖さではなく、古い日本の怪談のような「ゾワゾワー」というタイプの怖さです。私はホラー系を見ると(読むと)笑ってしまうという残念な性質があるのですが、こういう「ゾワゾワ系」は本当に怖くて笑えません。ゾワゾワ系は、ちゃんと怖さを楽しめるので、好きなタイプのホラー話です。

そうは言っても、基本的には日常の出来事がたくさん(20話以上!)書かれているので、続けて読むと退屈してしまいます。週1で2クール(6ヶ月)くらいのペースで読んだ方が楽しめそうです。

感想(ネタバレあり)

ここから先は、物語の核心に触れる記述があります。まだこの小説を読んでいない方はご注意ください。


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日常系なので「ネタバレあり」と銘打って程語ることはありません。

でも、その日常な感じが良かった作品なのでなんとも微妙。ときどき挟まっていた不思議なお話がインパクトが強くて好きだったりしましたが、ここは敢えて日常系のお話についてひとつ。

私が永日小品の中で一番好きなお話は、「行列」というお話です。
書斎で書物をしていた主人公がふと顔を上げると、戸が少し開いていて、廊下の様子が少しだけ見えました。その廊下を着飾った女性が横切って行きます。全部で4人横切って行くのですが、それを一人ひとり事細かに描写していきます。のですが、なんだがチグハグな格好ですし、何よりも服が大きすぎます。いや、女性が小さいのです。女性ではなくて女の子です。そして最後に、次のような一行が添えられます。

「宅(うち)の小供は毎日母の羽織や風呂敷を出して、こんな悪戯(いたずら)をしている。」

正に何でもない日常を切り取ったようなお話なのですが、可愛らしくておかしくて大好きなお話です。描写が丁寧で頭の中に鮮明な映像が浮かぶのですが、読み進めていくうちに「あれ?なんか変な格好だな。」「服大きすぎない?」「ああ、子供なのか!」という感じで、どんどん頭の中の映像が修正されていく感じが良かったです。面白かったです。

最後に横切って行く一番小さな女の子は、ヴィオリンを持っています。私は、「三四郎」と「それから」に登場する、「よくってよ。知らないわ。」というセリフを言う妹キャラの女の子が大好きなのですが、このふたりもヴァイオリンを弾いていました。どうやら夏目漱石の作品に登場する萌えキャラは、ヴァイオリンを持っているようです。いや、ヴァイオリン自体も萌えアイテムだったのかもしれません。

他のお話も丁寧な描写がされていて、日常の中にあるちょっとした光るものを拾い上げている感じがしました。劇的な展開も、驚くようなストーリーもないのですが、こういったスタイルも新鮮に感じました(古い作品なのに!)。

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ぺんぎん

ぺんぎん の紹介

物語をこよなく愛する一般人。 物語ならば、映画、小説、アニメ、ゲーム、マンガなどなど、形態は問いません。ジャンルや作者に縛られない濫読派。
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